盲信色

この船内で一番分厚い扉をできるだけ音を立てずに開けて足を踏み入れると、噎せ返るような煙草の匂いに思わず顔を顰めた。その原因をつくったであろう男は床に座り、窓際に寄せたダブルベッドに寄りかかる体勢で月明かりを頼りに本を読んでいる。視線をそこに置いたまま私の名を呼んだ。

「勝手に部屋に入るな」
「ごめんなさい、会いたくて」
「聞き飽きた」

パシンと乾いた音と、だんだんと熱を帯びる頬。床に置かれた灰皿が吸殻で溢れかえっている。自分の目線が先程より随分と低い。ああそうか。いつの間にか立ち上がった彼にはたかれたようだ。

「何度言えば分かる」
「もうしないわ、本当にごめんなさい」
「それも聞き飽きたっつってんだよ」

「出て行け」と私を見下ろす彼の目が潤んでいることに気付く度、私はまた同じ事をするのだろうと確信するのだ。





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