ホシと神秘の愛

外観を損なわぬよう上から言い付けられたであろう、妙に鮮やかで洒落た店が並ぶ島のメインストリートでおれの数歩後ろを歩くナマエがつまづいてそのまま地面に口付け。未遂。何も無い所で転ぶ奴がいるか。いや、過去にいたがそれはれっきとした出来た人間でこいつなんかと一緒にしちゃいけねえ。

「何してんだてめえは」

返事はない。
数ヶ月前いきなり空から降ってきたという世にもメルヘンチックで摩訶不思議な女は、いつか妹と読んだ絵本の中の小娘みたく天然?それともただの馬鹿か?(いいから早く立て!)
とにかく、この未確認生命体は得体が知れないだけでなくどうしようもないドジ。こういうタイプは妙に腹が立つ!おれは自慢の潜水艦をUFOにする気はねえ。ポケットの中で数枚の金貨を意味も無く弄りまわしているとナマエはおれの口元を見ながらようやく立ち上がった。膝に砂が付いている。

「視力が悪いだけです。船長さんが目のお医者さんだったら治してもらいたかったのに」


▼▼▼


「本当にいいんですか?」
「何を今更。騒いだのはどこのどいつだ」

「綺麗な花がたくさん咲いてるから行ってごらん」と道行く老人に声を掛けられ、屋台の先にあった公園に向かった。ベンチに二人で腰を下ろしても未だ食べようとしないナマエに軽く舌打ち。いいから食えよと正面を向くと、溶け始めているオレンジ色の山をようやく崩し始めたようだった。暑いのは苦手だが、今日みたいな穏やかな日に外に出るのは悪くない。てかなんでこいつのデザート巡りなんかに付き合ってやってんだ、おれ。

「美味しいです船長さん!」
「良かったな。おれは一体どう食えば右頬が濡れるのかが分からねえが」
「わっ…早く教えてくれればいいのにケチ…」

決めた。こいつはバラしてオークション会場に持って行こう。宇宙人を愛でたい物好きが挙って競り合う姿をワインでも飲みながら見てやる。

「怒ってます?でも心臓取るのだけはやめてくださいね?せめてさっきのジェラートの屋台の前に一日放置くらいにしてください」
「誰がお前の喜ぶ場所なんかに置いていくか」
「……じゃあ果物屋さんの近くにあった大きなお肉屋さん。豚の頭が並べてあったでしょう?目が合っちゃったんです。あれは店の主人が憎くてたまらない!って目。グロテスクだしなにより怖いから嫌です。あ、お医者さんはグロテスクって感じるんですか?」

左頬をハンカチで拭くナマエからそれを奪い取って反対側を拭いてやると、真っ赤な顔をして早口で捲し立て始めた。馬鹿な奴だ。自分の口角が上がるのが分かる。おれもただ単に物好きと一緒なのかもしれない。目の前で生き生きと咲き誇る赤いガーベラが風に揺れる。





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