愛、というものの正体について考えてみた。それはその相手のことをすべて丸ごと飲み込んでしまいたいと思うことか、または自分を犠牲にしてでも守りたいと思うことか。柄にもなく悩んでみたけれど、きっとその両方なんだろう。頭の天辺から爪先にまで知り尽くしたいという衝動と、その体を思うがままに蹂躙してみたいという残虐さと、心配だから四六時中一緒にいれたらという身勝手と、彼女が笑ってくれるなら命を賭してもいいという自己犠牲の概念と、その他いろいろな感情やら理論やらがごちゃ混ぜになってマーブルしたもの、それが愛というものなんだと思う。


「…みなこ」


月明かりの中、隣で眠るみなこを呼んだ。もちろん眠っているから返事はない、でも今のこの胸中に蟠ったものを吐露するには彼女の名前を呼ぶのが一番いい、とそう感じた。みなこ、もう一度呼んで、今度は唇に指を這わせる。可愛らしく色づいた天然色は、やっぱり柔らかくて。どこか甘いお菓子を彷彿とさせた。いや、もしかしたらみなこは全身お菓子でできているのかもしれない。そんな馬鹿げたことを考えてしまうくらい、みなことの口づけは甘かったし、どこかしこも柔らかくて気持ちいい。そんなことを言うと「太ってるってこと?」なんて拗ねるから言わないでおくけれど。


「みなこ、」


ふにふにと唇の感触を楽しむのにも我慢ができなくなって、そっと柔らかいそれに口付ける。やっぱり予想通りみなこは甘くて、いつの間にか夢中になって口内を貪っていた。


「…っ、は、…るか、く、ん?」


流石に息苦しくて目が覚めたらしい。みなこの途切れ途切れの呼吸の間に聞こえた舌足らずな声に、俺の中の獣が目覚めてしまう。角度を変えて、歯列をなぞり舌を甘噛みして吸って、みなこの吐息を奪って互いの唾液を与え合って。そうだ、愛とは、こんなキスのようなものなんだ。

「も、琉夏く、ん」


胸を軽く叩かれようやく解放してあげると、乱れた息を整えようとしているみなこに睨まれた。でも涙目で頬が上気してる状態だから全然怖くない、寧ろムラムラする。もう、といつもみたく怒るみなこをぎゅうと抱き締めて、ごめんね、と小さく謝罪した。みなこが愛しくて堪んなくて、と付け加えて。


「だからって寝てるときにしなくても」

「じゃあ起きてたらいいの?」

「…揚げ足とらないの」


ちぇっ、とわざとらしく溢しながら、小さな体を更に引き寄せて肩口に顔を埋めれば、呆れたような笑い声が聞こえる。


「眠れないの?」

「まあね、みなこが隣で寝てるからムラムラしちゃって」

「冗談言わない」

「マジで、大マジ」

「もう」

「もうもう言うな、牛になるぞ」

「何それ、コウちゃんの真似?」


くすくすと笑うみなこ、鈴が転がるような音色も、ふんわりした笑みも、優しい光を灯す瞳も、甘い体も、全部ぜんぶが愛しくて愛しくて。それらを奪いたくて、代わりに俺を与えたくて。でも、それは俺だけの勝手な独りよがりな衝動なんじゃないかと不安にもなる。そんなことを考えていたら、不意にみなこの白くて細い指が俺の頬を撫でていて、その柔らかい感触に現実に引き戻された。みなこの顔をじっと見つめれば、黒目がちな丸い瞳を細め、小さな唇で。


「琉夏くん」

「…ん?」

「もう一回、キスして」


可愛らしいおねだりに、俺は愛の名の元にお応えした。





(そうして僕らの中で循環していく)



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