「もっと静かなもんだと思ってた」
そう呟いた言葉はとても小さかったのに、みなこは取り逃がすことなく鼓膜で拾いこちらを振り向いた。
「そう?賑やかで楽しいじゃない」
そう微笑む姿が、今日は一段と可愛らしいと思うのは、きっと気のせいじゃない。ほんのりと口紅で色づいた小さな口を緩やかに持ち上げて、にこり。ああ、もうこの場で抱き締めて押し倒したい衝動にかられている自分を抑えるのも一苦労だ。我慢するのに集中していると、みなこの柔らかい手のひらが自分のそれに重ねられ、ビックリした。が、目の前のふんわりした、ひどく幸せそうな顔を見たら、みなこの華奢な指を自然と絡めて、そのまま握っていた。あたたかい手のひらを包み込むと、なんだろうか、なぜだろうか、不思議と泣きたい気持ちが込み上げる。やっぱり俺はどこかおかしいのかな、嬉しいはずなのに。
「琉夏くん、そろそろ行こうか」
穏やかなみなこの音色が、胸を締め付ける。ああ、もう窒息してしまいそうだ。
「みなこ」
「ん?」
神様、一度俺を突き放した神様、俺はアンタに堂々と胸を張れるような生き方はしてこなかったけれど、今は、今だけは真っ直ぐにアンタに誓うことが出来そうだ。弱くて臆病な俺だけど、みなこを一生守るヒーローになるよ。
「ん、」
「…だめ、それは今日のメインイベントなんだから」
「なんで?昨日もしたのに」
「な、なんでも!」
昨日のことを思い出したのか、顔を真っ赤にさせて、恥ずかしさを誤魔化すように手を引っ張り「早く、みんな待ってるよ」と先を行く。そんな可愛らしいみなこの手のひらを握り返すと、しっかりとした力で指が絡まる。ヒーローは俺のはずなのに、今からこれじゃあ先が思いやられる。ごめんね神様、俺が完璧なヒーローになるにはもう少し時間が必要だ。
「そうだ、大迫先生も氷室先生も来てるんだよ」
「大迫ちゃんならわかるけど…なんで氷室も?」
でも俺たちの時間なら、今日と言う日に約束されるから、いつか、きっと。
(僕たち、結婚することになりました!)
20100715
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