眩しい朝日の中、下からの物音で目が覚めた。寝起きの回らない頭で、まず今日は何月何日何曜日で、バイトが入ってたかどうかとかを考える。ああ今日は日曜日だったな、んでバイトもなくて、そんで…。濁ってぐるぐるしていた頭が急に晴れて飛び起きる。そうだ今日はみなことルカと三人で遊園地に出掛ける日だった。時計を見遣れば、約束の時間はとうに過ぎている、やべえ寝過ごした。最近バイト詰め込みすぎたからな、なんて言い訳染みたことを考えながら手近な服をひっ掴んで着て、財布をポケットに突っ込む。急いでいても髪だけは整えたい、そう思い階下へと繋がる階段に足をかけると、鼓膜を揺らす話し声。なんだ?ルカの馬鹿、まだいやがんのか?そうしたらみなこのやつがひとりで待ちぼうけくらっちまうじゃねえか。自分のことを棚に上げて訝しく思っていると、どうやら声はふたつ、よく聞けばみなこのものだった。


「ねえ、こんなに焼いて本当に食べるの?」

「うん、もちろん」

「…太るよ」

「ヒーローは太らないのだ」


相変わらず下らない会話してやがんな、と、思わず苦笑してしまう。漂ってくる甘ったるい香りから察するに、どうやら起きた原因の物音はみなこがホットケーキを焼くものだったらしい。勿論食べるのはルカだ。アイツ、またみなこにねだって作って貰っている、ルカ曰く「みなこの愛情がこもったホットケーキはいつもの一億倍美味い」らしい。


「コウちゃん、まだ寝てるのかな」

「あーまだなんじゃない?アイツ寝起きは機嫌悪いから行かないほうが良いよ」

「怖そー、でも最近疲れてたみたいだし、もうちょっと寝かせてあげようか」

「そうだね、ホットケーキも独り占めできるしね」

「え、本当に全部食べるんだ」

「もちろん」
自分の名前が出てきて少しだけ身を固くしたが、すぐに力が抜ける。なにみなこに吹き込んでるんだアイツは、まあ確かに眠いときは虫の居所が悪いことも多々あるがそれだって九割…こりゃほぼだな。だがみなこが起こしにくるんなら話は別だろ。しかもみなこが気遣ってるのを良いことに、アイツのことを独り占めして楽しんでやがる、ホットケーキ「も」の部分にそれが出てるのが分かる。ったく馬鹿ルカが、いつ邪魔をしてやろうかとタイミングを見計らっていると、


「…なあみなこー」

「なあに?」

「…みなこー」

「はいはい」

「……みなこ、」

「んー?」

「俺たちさ、ずっと一緒、だよな?」

「もちろんだよ」

「明日も明後日も明明後日も明明明後日も?」

「うん、明日も明後日も明明後日も明明明後日も来年も再来年もずっとずっと」

「…そっか」

ルカは、ルカは両親を亡くしてから俺以外に甘えたことがない。親父にもお袋にも、家族として接することはあっても決して心から甘えたものではなかった。どこか遠慮がちで、敢えてそうしたことを避けているように見えた。幼心でもルカが自分から幸せを遠ざけているのは分かっていて、それが酷く苛ついた時期もあったが、解決するのはルカ以外の何者でもないと理解して。そうこうしている間に、みなこが帰ってきた。みなこは不思議なやつで、そんなルカを自然に優しく包み込んでしまった。あの小さな体で、華奢な腕で、ルカを支えている。俺が埋めることが出来なかった空白を、静かに、しかし確かに満たしている。どこか消えそうな危うさを持っていたルカを、此処に繋ぎ止めている。意識したりとか偽善だったりとかではなく、ただ呼吸するかのように。


「ほら、焼けたよ。冷蔵庫からシロップ持ってきて」

「…はあい」

「その後コウちゃん起こしてきてね」

「…それはパス」

「もうっ」


太陽が南中を横切る中、俺はもう少し、この穏やかな空気を楽しむことにした。




(柄にもなく、微笑んでる自分がキモい)
20100714
title by 魚さん


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