「じゃあな、みなこ」



いつもの三人での帰り道、コウがみなこちゃんの家の前まで送った別れの際に言った一言に、俺はひとりで過敏に反応してしまった。コウはなんでもないみたいに踵を返して家に向かい、みなこちゃんも「またね」って笑顔で手を振り家に入っていった。


「おい、なにボケてんだ帰るぞ」

「あ、うん」


ぼうっとしてたらコウに叱られて、慌てて後を追う。ぶらぶら帰りながらコウがまた「お前がそんなんだからあいつに心配させんだよ」とかお小言をブツブツ言っている。そんなのを聞き流しながら、俺はさっきのことを考えていた。高校で再会したみなこちゃんと俺たちは三人で遊びに行ったり、三人で帰ったりと、一緒にいる時間が増えた。やっぱりみなこちゃんはあの頃から変わらなくて、明るくて優しくて、あったかい春の太陽みたいだった。もうすっかり変わった俺たちが申し訳ないくらいだ。それでもやっぱりみなこちゃんは笑ってくれていて。ああ、この時間がずっと続けばいいのに、とか、ありもしないこと考えてた。


「…てめぇ聞いてんのか馬鹿ルカ」睨まれて、宙に浮いていた意識が地上に戻る。「なに考えてやがったんだ」と聞かれたから、「永遠について」って正直に答えたら、グーで頭を叩かれた、痛い。


「ったく、俺はバイト行くから先に帰れよ」


そう言い残して、コウはガソスタに向かっていった。なんだ、予定があったのにみなこちゃんと帰ってたんだ。小さくなっていく背中を見送りながら、その足取りがいつもよりも軽く見えたことに少し驚く。生活に必要だから働く、というのがコウの考えだったし俺の考えだったわけだけれど、最近は少し違うみたいだった。帰り道の喫茶店でみなこちゃんに奢ってあげたりとか、イベントごとにプレゼントあげてたり、知ってるんだ。


「…うん、知ってた」


誰もいない道端で、呟く。声に出したら胸の中にそれは広がって、どうしようもない感情が押し寄せてきた。ああそうだ、そうだ。


「みなこちゃん」


呼んでみた、呼ぶと止まらなくて。


「…みなこ」


潮風に掻き消されたそれは、誰の鼓膜も震わせなかった。



(芽生えたそれは、消えてくれそうにない)
20100714
title by 魚さん


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