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あらしのうた

オレはフリオニールと一緒に戦うのが好きだ。他の仲間と戦うのが嫌いってわけじゃないけど、フリオニールは強いし、一緒に戦いやすい。
オレと同じように武器をいっぱい使うからってのもあるかもしれないし、お互いあんまり頭使ってないからってのもあるかもしれない。(むやみやたら、っていうより、感覚で戦ってるって意味な)
そして何より、
こいつと一緒なら、誰にも負ける気がしないんだ。


目の前には、敵、敵、敵。オレとフリオニールを囲むように蠢いているイミテーションの数は、大体二十…くらいかな。オレや仲間のみんなの姿を借りた人形は、いつ見たって無表情でつまらない。

「逃げてもいいんだぞ?」
「こいつらが聞いてくれるはずないだろう」
「あー、それもそうか」

とん、預けた背中が、触れる。オレよりデカいフリオニールの背中。オレの言葉に呆れたような口調で応えたこいつは、静かに息を吐いた。そして、武器を手に取る。背を向けたままでも分かった。フリオニールが取ったそれは、間違いなくオレと同じ、槍。

「ふんッ!」
「はぁっ!!」

一斉に向かってきたイミテーションを、巻き起こした旋風で絡めとる。考え無しに突っ込んできた人形を砕き、吹き飛ばす。それが、始まりの合図だ。

「どんどんこい!」

一瞬の隙も見逃さないフリオニールが、次の一手を繰り出す。雷撃を纏ったナイフがイミテーションに突き刺さり、引き寄せられる。オレも負けちゃられないなって、手に取ったのは一振りの刀だ。踏み込んで、一撃。宙に舞う、水晶の人形。フリオニールと同じ形をしてるのに、なんてもろい人形、なんだろう。あいつはこんなに、強いのに。
ナイフで引き寄せたそれを剣でふっとばし、弓を引く。フリオニールに斬り掛かってきたイミテーションはオレが斬り伏せた。邪魔は、させない。

「はあッ!!」
「ぶった切るっ!!」

フリオニールの戦い方が、オレは好きだ。持ってる武器を全部使って、感情や神経や、感覚や気迫、そういうのを全部目の前の戦いに集中させてる感じが、凄く真っ直ぐだからだ。
相手の出方なんて伺う必要なく、自分のペースに持っていく。息をつく間もなく攻め続ける、まるで、うん、そうだ。

例えるなら、剣。

「逃がすかっ!」

怒気でも殺気でもない、気迫と一緒にあいつが放ったのは、斧。くるくる、車輪が回るように回転するそれは、こいつの手から離れ、また戻ってくる。オレたちを囲むイミテーションを、敵を絡めとるその一撃。
さっきのようにはいかないぞ、なんて言ってるみたいに、イミテーション達はそれを回避した。でも、そんなことは大した問題じゃない。

「沈めっ!」

フリオニールの手元に戻るより早く、オレがその斧で―態勢を崩した奴らを沈めるから。だからフリオニールは次の一手に、

「あたれッ!!」

擦っただけでも大怪我してしまう、あの矢を放つことが出来るから。
閃光みたいな矢は人形たちを貫いて、いつの間にかオレたちを囲んでいたそれらは数を減らしていて。ああ、やっぱりって。負ける気しないなって、思った。
こういう敵にはこういう戦法で攻める、とか。この武器はこうやって使う、とか。そんな難しいことはよく分からない。戦い方なんて誰も教えてくれなかった。フリオニールもそうだったって、言ってた気がする。
だから、かな。なんとなく、こいつが次に何をするか、分かるんだ。

フリオニールは武器をたくさん使うけど、オレから言わせればこのフリオニールって奴自体が武器だと思う。放った斧もナイフも、矢も槍も、全部フリオニールの手足みたいなもんだ。オレの武器と、同じで。
だからオレはフリオニールと戦える。フリオニールの手を借りて、フリオニールの手になれる。

(戦いが楽しい、だなんて。)
(オレ、変かな)



*****

ヴァンと一緒に戦うのが、俺は好きだ。他のみんなと戦うのが嫌いっていう意味じゃなく、なんていうか…ヴァンと一緒だと、戦いやすい。

「切り裂け!」

ヴァンが唱えた風魔法が、周囲のイミテーションを引き寄せて、裂く。ヴァンは武術も得意だけど魔術も俺よりずっと得意で強力だ。そんなあいつの唱えた、魔法。躱そうと動き回る奴らを仕留めるのは、俺の役目だ。

「はあッ!」

渦を巻くそれに呑まれたイミテーションが、音を立てて砕けていく。いつの間にか俺たちを囲んでいた奴らは両手で数え切れる程に減っていた。
でもまだ、おわっちゃいない。

「捕らえた!」

両腕の腕力と踏み込みの遠心力を上乗せしたヴァンの剣が、イミテーションを粉砕する。そして、ヴァンが、飛ぶ。その手にはもう、自動連射式の弓…ボウガンが。
飛び上がった不安定な姿勢のまま、イミテーションを追い詰めるヴァンの矢。躱そうとしても、ガードしようとしても、結局、無駄だ。

「ふんッ!」

ヴァンの手放した両手剣は、まるで計算しつくされたかのように−俺がそうすると予測しつくされたかのように、イミテーションに突っ込んだ俺の手元に収まった。だから、こうして。あいつのボウガンに意識をとられた奴らを、切り伏せることが出来る。

ヴァンと一緒に戦う時、どうして戦いやすいかの最大の理由はここにあった。ヴァンは常に、俺が戦いやすいように立ち回ってくれている。
もちろん、この攻撃の後はこう連携させていく、とか。そんな話し合いをしたことなんてないし、同じように沢山の武器を扱うもの同士だから、お互いの癖や隙が分かる…というわけでもない。(だって俺たちは同じ武器を同じように使うと限らない)そもそも、いつだって敵の動きを見きわめるのに必死な俺に、戦法を考えたり仲間の動きを予測したり、なんて芸当できっこ、ないのだ。
でも。ヴァンはそれをあっさりやってのける。
何も考えてないような、あの顔で。

「降り注げっ!」

ヴァンの唱えた水魔法を受けたイミテーションに、止めをさすべく俺は弓を引く。射った瞬間、背後に気配を感じたけれど、俺は振り返ることをしなかった。必要がないとわかっているからだ。
詠唱を終えたあいつが、地面を蹴る。真っ直ぐに俺に向かってきて、そのまますれ違い様に俺の腰から剣を抜き、

「やあっ!」

敵を退けて、くれるから。

例えるなら、風。
ヴァンと戦っていると、見えない風が俺の周りに吹いている。そんな風に感じるんだ。
攻める時は強力な追い風となって俺に力をくれて、敵からの攻撃の一切を俺から遠ざけてくれる。
だから俺は、こいつと戦うのが、好きなんだと思う。


(命のやりとりをしているはず、なのに)
(心踊るこの感覚は、なんだろう)


*****

「相変わらずあの二人は強いね」

切り取った大地をそのまま宙に浮かべたようなこの次元城で、私たちは足元よりずっと低い位置に浮かぶそこで繰り広げられる戦闘を見下ろしていた。どうやら合流地点としていたこの場所に先にたとりついたのは彼らだったらしい。
白い鎧を身に纏ったセシルがぼうっとつぶやいたのを聞き、私もああ、と頷いた。たった二人で何体のイミテーションを退けたのだろうか。戦い続ける彼らの足元には、砕けた水晶が幾重にも重なりあうように散らばっていた。

「…でも、あんな戦い方、無茶苦茶だよ」

そう呟いたのは赤い鎧のオニオンナイトだ。彼はどこか不服そうにつぶやいた後、その小柄な体を宙に投げた。おそらく彼らの助太刀に向かうつもりだろう。私たちもそうするべきだとは分かっているのだが、なかなかそうできない、しようと思わないのは、間違いなく彼らの戦いに目を、心を奪われているから、だろう。

「二人で戦ってるっていうより、ふたつで一つの何かみたいだ」
「ああ」

共闘、とも、背中を預ける、とも違う。助け合うとも言い難い彼らの、フリオニールとヴァンの戦いは、己の剣にすべてを込める私やセシル、オニオンナイトからすれば考えられない戦い方だ。オニオンナイトが彼らの戦い方を無茶苦茶だと言ったように、私もそう思う。彼らは自身の得物を一つに留めず、攻め方を一つに絞らず、守り方を一つに拘らない。敵に攻撃する隙を与えず攻め立てるフリオニールと、敵の隙を見極めて強力な一撃を繰り出すヴァンの組み合わせは、どんな状況下にあっても攻め続けることの出来るのだ。
それを、強さだと評価するべきか、滅茶苦茶だと評価するべきかと聞かれれば言葉に困ってしまうところなのだが、とりあえず。
まるで本能的に戦う彼らの、なんと圧倒的なことか。

必要ないかもしれないけれど、と付け足したセシルが、オニオンナイトの後を追うように彼らのもとに向かうのを見ながら私は思う。青い鎧を纏った私が、彼らの元に辿り着く時には、もう方がついているだろう。鉄色の髪の彼と、鉄色を纏った彼は、加勢しようとしなかった私を非難するだろうか。どんなものだ、と胸を張るだろうか。


ああ、彼らは、まるで。

「…例えるなら、嵐。」



*****
121010

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