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ハロー・マイフレンド

「まさかあんたがキーブレード使いになるなんてな、」

夕焼けと夜が混じり合ったような不思議な空を眺めながら、隣に立つリクが呟いた。なんだよそんなに驚くことじゃないだろ、と笑うと、リクはうっすらと瞳を細めて見せた。俺の知ってるこいつとは違う、なんて穏やかな表情だろう、って、思う。
ついさっき光の勇者を送り出した時も、こいつはこんな風に優しく微笑んでいた。どうやら会わなかった(ノーバディとしての俺が消滅してから今に至るまで、と言った方が正しいか)間に、こいつはこいつなりに自分の中の葛藤とか、手を出してしまった強大な力への苦悩とか、大事な親友との関係、とか。そういうものを全部全部受け入れて、その上で前に進むことが出来たんだろう。そう思う。そう思ってしまうくらいに、隣にいるこのガキんちょは成長していた。

「…連れ戻しにいかなきゃなんねー友達が、いるからな。」

ひとつ、息を吐いて頭を掻く。呟いた言葉はほぼ独り言のようなもので、だから隣にいたリクがぴくり、と、一瞬だけ固まったのは予想外ってやつで。そのまま俺は口を閉ざす。お互いに続く言葉は、無かった。

ソラの心にダイブしたというのならきっと、リクは見たんだろう。会ったんだろう。俺の会いたい、大事な―…親友、と。
ロクサスをソラのなかに戻したのはリクだった。
こいつはこいつにとって大切な親友を目覚めさせるために必死だったんだ、だから俺は、そのことについて何も言わない。思うことがないわけじゃ、ないけれど。…むしろ、思うだけのことはたくさん、たくさんあった。ある日突然生み出されて、自分が何者なのかも分からなくて、でも確かにここに「存在」していたのに、ソラの中に戻れ、なんて。じゃああいつは何のために生まれてきたんだ。ロクサスは、ロクサスは。ノーバディだろうがなんだろうが俺の大事な友達、だったのに、って。
大人びたっていうか、感受性っていうか。キラキラ光ってる太陽みたいなソラとは違って、静かに浮かぶ月みたいな…小さい時からよくつるんで馬鹿やってたアイツとよく似てるこの少年は、その辺もふまえて、黙ったんだろう。まったく馬鹿みたいに正直で真面目なヤツだと思った。そんなことまでお前が気にする必要なんかないのに。
自分の何に変えても助けたいやつがいた。そのために奪った笑顔がある。
それを気に病まれたりしたら―…連れ戻すって約束を守れてない俺が、あんまりにも。
格好悪い、じゃねーかよ。

短い沈黙の後、俺は両腕を投げ出して、伸びをする。右手は高く、左手は、この手からすり抜けてったアイツに、伸ばすように。

「なぁ。」
「ん?」

声を掛けると、隣にいる銀髪が俺の方を向いた。細い髪の毛が揺れて、空色の瞳が向けられる。
頬にあったそれを捨てた俺は今どんな顔をしているだろう。分からないけれど、俺の「心」はもう苦しんじゃいない。悲しんじゃいない。ただ、思うのは、願うのは。



「夕日がどうして赤いか、知ってるか?」

紡ぐのはあの日のあの場所で紡いだ言葉。
俺の赤はどこまでも届くから。おまえの手を、掴むから。
待っててくれよ、俺の、親友。


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120831

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