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コスモスとカインさん

戦い続ける戦士達のその背中を、私は幾度見送って、その度に彼らを見殺しにしてきたのだろうか。彼の、この背中も。いつか、積み重ねてきた記憶のなかに埋もれてしまうのだろうか。そんなことが頭を過ぎった、その時だった。

「俺の世界には、コスモスという名前の花が咲く。」

私に背を向けたまま、また戦場に向かおうとするその足を止め、竜騎士が呟いた。すらりと伸びた長身。実直な彼の内面をそのまま映し出したかのような立ち姿。そんな彼の口から出た、花という単語。
そこで私は考えた。コスモスという、花について。私と同じ名を持つ花。それは一体どんな花なのだろうか。考えたところで、その花を見たことのない私にはわからない。少し間をおいてから彼に尋ねると、彼はとても綺麗で、儚い、花だと答えた。
(とても綺麗で儚い花、)
(戦士達を戦いに繰り出すことしかしない私とは、縁のない、花、ですね)
力を与えることは出来ても、私は世界の為に身を投げ出して戦うことはできない。花のように咲き誇ることも、儚く散っていくこともできないのだ。そう思うと、私は胸の奥がきゅうっと痛むのを感じた。痛んだ胸に手を当てたところで何も変わりはしなかった。ああ、背を向けて立ち止まったままの彼は今どんな顔をしているのだろう。

「…この世界にも、いつか、その花が咲くといいのですが。」

私と、あの子の戦場でしかない、この不毛な世界に。
偽りの、模倣の、まやかしの、うつろいの。そんな私では、なく。美しく儚い花が咲いたら。そんな世界に、できたら。−…名ばかりの神に、そんなことなどできはしないと知りながら、私はそう口にした。また胸の奥がきゅうっと、痛む。でも、彼は。

「きっと咲くさ。」

頷いて見せた。首だけで振り向いて、強く肯定して見せた。彼の顔を覆う鎧に阻まれて、彼の表情を窺うことは出来なかったけれど、紫の乗った唇は緩く弧を描いていた。彼が初めて私に見せた表情、だった。

「俺たちがこの戦いを終わらせたその先に、きっと。コスモスも、…薔薇も。…綺麗に咲き誇ると信じている。」

そう、言い残して。
紫紺の竜はまた歩き出した。迷いなどなく、ただ真っ直ぐに。その背中から、私は目を離すことが出来なかった。きっと彼はもうここには戻ってこない。なんとなくそう感じた。そして、私は。私には。

(私とあの子の戦場でしかない世界に、)
(戦いのない世界、など、この世界にはありえないのだ、などと、)
(言えない、言えるはずが、ない。)

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120430

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