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アシストゲージ24710%!

「大丈夫かい?」
「ああ…ありがとう、助かったよ」

ぼんやりと光を纏った騎士が、地上に降り立つ。凛とした立ち姿は見慣れたそれで、差し伸べられた手は真っ直ぐに俺に向けられていた。
光の閃光でイミテーションを打ち払った騎士こと、セシルの手を取り立ち上がると、セシルはふわりと、笑う。

「これくらいお安い御用さ。…フリオニール、きみはいつも頑張り過ぎだ」

上品に、気高く、そんな、高貴な空気を纏ったこいつは、いつもこんな風に笑う。俺はセシルが好きだった。頼もしくて、誰より優しい。本当の強さとは何かを知っている、そんなセシルこそまさに騎士と呼ぶに相応しいと俺は思う。そして俺もいつか、こんな風になりたい。夢を叶えるために剣を振るうだけでなく、奪われたものを取り返すために剣を掲げるだけでなく、大切なものを守るために強くありたいと、思った。…そもそも俺に力があったら大切なものを奪われずにすんだのに、守るために強くなりたいだなんて無理があるだろうか。
ぼうっとセシルの手をみる。筋張ったその指先には小さな傷としこりがたくさん出来ていて、彼が積み重ねてきた努力の片鱗が伺える。…そうだ、俺も、もっと強くならないと。そう思った。そう思わせてくれる、指先だった。

「きみは一人じゃないんだから、ね?」
「…ああ」

小首を傾げて、花のように微笑むセシル。
強くて優しい騎士は、いつだって俺たちを守ってくれる。


(そうだ。俺はひとりじゃない)
(だから、もっと、強くなれる)


*****


イミテーションの軍勢がまた数を増したように思うけれど。恐れを感じることがないのはきっと、背中を預けた君の存在のおかげだろう。

「手伝おうか」
「きみが来てくれるなんて、頼もしいな」

じゃきん、と。彼がその大剣を構えると、重厚感のある音がした。記憶にある親友の影とはまた違う、まるで大地をも砕いてしまうような圧倒的威圧感。戦うことを生業としていたという彼の剣は、あたりに蠢く水晶の軍勢をいとも簡単に打ち砕くことだろう。僕は彼の剣の腕を、戦力を、そして彼自身を信頼し、尊敬している。
(迷いながらも道を進む、そんな彼の強さは、彼の剣と同じ、真っ直ぐなその瞳、)
ざわり。騒ぐのは無限の軍勢か、僕たちの血潮か。ひとつ息を飲む。ざわり、また、なにかが確かに騒めいた。

「安心して暴れてくれ。…おまえの背中は俺が守る。…おまえは一人じゃない」
「…ああ」

とん、と、背中が触れて、一瞬。呟いた彼の言葉は、僕の耳に届いた。まるで独り言のようなその小さな言葉は確かに僕の心を奮わせた。


(そうだ、僕は一人じゃない)
(だから、きみと、戦える)

*****

「手伝うっスよ!」

ひゅん。飛んでくる、飛んできた、二つの物体は俺の頭上でぶつかり合い、弾けた。力量の低いそれは砕け散り、もう一方は華麗に宙返りし、隣に降り立った。

「…助かった。悪いな」
「気にすんなって!」

軽快な足音と共に放たれた言葉はやはり快活で、隣の横顔は太陽のように笑っていた。そんなこいつの、ティーダの腕には一振りの刃。まるで透き通る海をそのまま切り取ったかのようなその剣を、手の内でくるくると回転させたティーダは、擽ったそうに鼻をかいた。
両手で数えられる程とはいえ、イミテーションという明確なる敵を目前に控えているとは思えない、その笑み。戦慄とも昂揚とも言い難いそれは、この戦場を、この状況を楽しんでいるように見える。例えるなら、競技に望むアスリートのようだ。

「どうした?」
「へへ、オレみたいな素人が、クラウドと一緒に戦えるって、なんか、嬉しいなーって思ってさ?」

バスターソードを構えなおし、目前のイミテーションを見る。歪な光の反響。蠢く、何か。
そしてそれらから程遠い存在のこいつは。光を放ち続ける、太陽は、胸を張り、輝く。

「ダイジョーブ!クラウドは一人じゃないッス!オレが来たからもう安心してくれてオッケーッス!」

切り取った青を握りしめたまま、ティーダが前傾姿勢をとる。そして、駆る。偽りの水晶にはあの光は眩し過ぎることだろう。
ティーダが走った軌跡をなぞるように、俺も踏み出す。

「…ああ」

ティーダがイミテーションに切り掛かる。身体のばねを生かした動きで水晶の一撃を軽々と躱し、まるで空を飛ぶように跳び、水中を泳ぎ回るように跳ねる。
その背中に向かって呟いた言葉はこいつに届いただろうか。なあ、ティーダ。


(そうだ、俺は一人じゃない)
(だから、まっすぐ、歩いていける)


*****

「加勢しよう!」

圧倒されてしまうくらいの雄叫びと、渦を巻く闘気。
一瞬で戦況を覆したそいつは、涼しい顔で振り返る。たったさっき放った八つの武器を手際よく身に付けるその様は見慣れたものだった。なんかもう武器自体に意志があって、みんな持ち主のおまえ好きすぎてわーってくっついてってんじゃねーの、とか思ったけどとりあえず、

「フフフフリオニールぅう!ありがと!マジでありがと!死ぬかと思った!ちくしょーフリオニールのクセに格好良すぎッス〜!!結婚して!!」
「はぁ?!って、何だいきなり!」

ピンチを救ってくれた恩人に、オレに出来る最高の、オレの抱いた全ての感謝の気持ちを伝えるべく抱きついた。ジャンプからの抱きつき、名付けてジャンプ&ハグ!
そんな新技を披露しちゃうくらい、オレはのばらことフリオニールに感謝していた。だって本当に、本当にやばかったんだ。
この辺の歪みはもう全部解放してあるから楽勝ッス!なんて入った歪みがうっかり強い敵ばっかりで、稽古っていうか練習気分だったから備えもなんにもしてなくて、しかも数が多すぎて。自分の油断が招いたピンチ以外何物でもない窮地だけど、ていうか、だからこそ。

「だってマジで焦ったんッスもん…ほんと、ありがと…」
「…まったく。油断大敵。肝に銘じておくんだぞ?」
「リョーカイ…」

きっと誰も助けになんか来てくれないだろうし、どうしようって。そう思った。オレひとりで大丈夫だから!みんなにそう言って出てきた過去の自分を恨んだところで、がっしゃんがっしゃん攻撃してくるイミテーションは数を増すばかりだし、カウンター狙いでちまちま反撃したところでこんな数捌ききれるはずもない。
だけど、だから。
べり、って音が鳴りそうなくらい勢いよく、ひっついていたオレを引きはがすと、ピンチを救ってくれたヒーローさまことフリオニールが、オレのでこをこつん、と叩く。うう、きっと怒ってる。口調こそいつも通りだったけど、そうに違いない。顔を俯けたまま視線だけでフリオニールの顔を見上げると、やっぱりフリオニールは渋い顔をしていた。メーワクかけてごめんッス、一言呟くと、フリオニールはため息を吐いた。あああ、呆れられてる…!そりゃそうッスよね!!フツー、自分から敵の巣に突っこんでいってピンチになってるヤツなんて…はぁ。

「…おまえのピンチを、俺たちが放っておくわけないだろ?」
「へ?」

って。思ってたのに。
やれやれって顔したこいつが、
すっげー、優しい声でいうから。
くしゃくしゃって頭、撫でてくれるから!

「おまえは一人じゃないってことだ。分かったら帰るぞ?」

そう言ったフリオニールは、来た道を辿るように歩き出した。その背中が、格好良くて、なんか、嬉しくて。
迷惑掛けて申し訳ないって気持ちが、自分のお馬鹿さが情けないって気持ちが無くなったわけじゃないのに。助けて貰って安心した気持ちと、なんかすっごく、救われたような気持ちと、色々よく分かんないのが入り交じって。オレは乱れた髪を直しながら、前を歩くフリオニールの背中を追っかけた。

「っ、おう!」


(そうだ、オレは一人じゃない)
(だから、みんなと、笑っていられる)


*****
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