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クラサメINディシディア

(6章後のクラサメが異説に召喚された設定です)


しろい、しろい、しろ。
見渡す限り一面の雪化粧。静かに降り続く雪はただ深々と、粛々と。
しろい、しろを纏って歩く、くろ。
半歩前を歩く黒衣の男は真っ直ぐに突き進む。迷いなどなく、一定の間隔を乱すことなく雪を踏みしめ続けるその背中が、俺は好きだった。もうすぐ聖域だな。そう呟くと、ああ、と返してくれる。一言だけだったけれど安心感を与えてくれるその声音が、俺は好きだった。

「あなたを見ていると、元の世界の仲間を思い出すよ」
「私に似たものが、いたのか」
「ああ。姿形がってわけじゃなくて、雰囲気が、ってだけだけど」

雪原を歩む足が一歩、また一歩と踏み出すたび、靴の下で雪がぎしぎしと鳴く。この音を聞いていると少し、ほんの少しだけ悲しい気持ちになるのはなぜだろう。朧気な記憶の中の雪は綺麗だけれどどこか哀しくて、胸がきゅうっと、なってしまう。

「その人は、俺にいろんなことを教えてくれた。戦いで必要な技術や知識だけじゃなく世界の知識とか、薬草の煎じ方とか…とにかく、色々。俺にとってあいつは、先生みたいなもので。右も左も分からない子供だった俺を、導いてくれてさ」

まるで世界の終りまで続いているような、そんなだだっ広い雪原の終りを目指してまた一歩、二歩。吐いた白い息はきいん、と冷えた空気に溶けて見えなくなる。熱のない世界はきっと透明だ。あいつの逝った世界も、きっと、俺の目には映らない。

「そして、死んだ」

呟いた言葉もまた、目には見えない。今の俺はさぞ情けない顔をしているんだろうと思っても、写し出す道具を持たない俺には、わからない。
あいつが、あの人が。
どんな気持ちで、俺たちに力を残して、託してくれたのかも。

そんな透明で真っ白い世界のなかで、唯一、ぽっかりと穴をあけたように黒いマントが揺れた。前に進むことしかしらないとすら感じさせる両足が止まり、後姿の彼が振り返る。

「…その者は、君の灯火となることを選んだのだろう」

これじゃあ情けない顔が、見られてしまう。少し俯いて、足元を眺めた。見えるのは白い白いしろ、と、自分の足と、彼の、足跡。視線でたどったそれは、俺の前に、進む先に続いている。
ああ、こんな風に。

「…そうなのかな」
「…ああ、きっと、そうさ。だから君が憶えていてくれれば、それだけで―その者は、報われるのだろうと思う」

彼も俺に道を示してくれたのか。
俺の少し前を歩いて、そして、ここから先は俺たちが道を切り開いていくのだと、送り出してくれたのか。
覚えている、忘れるもんか。記憶の中にいるあの人の笑みも言葉も、褐色に纏ったしろいしろい、白も。

「私の記憶の中にも、君に似た子供たちがいた」
「私は彼らの灯火になることができただろうか」

「ああ、きっとそうさ」
「きっと。俺と同じように、あなたを想っているはずだよ」

そしてまた、彼は俺に背をむけ歩きだした。一瞬だけ振り返った彼の、クラサメの瞳はうっすらと細められていて、顔の半分をすっぽり覆い隠す仮面のようなそれ越しでも、彼が元の世界を懐かしんでいるように感じた。
知らない。クラサメの世界がどんな世界だったかなんて、知らないけれど、どうか。

彼の世界が彼にやさしい世界でありますように。
彼の後に続く者たちが、彼を忘れたりしませんように、と。
俺は、思った。


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121221

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