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カインさんとウォーリアさん

「私には記憶がない。知っていると思うが。」
「いきなりどうした。」

作り物のように整った顔立ちをした男が、文字通りぼんやりと、呟いた。それは、いつも先頭に立って俺たちを導いていく光の戦士にしては、あまりにも気の抜けた表情だった。

「それを気味悪くは思わないか。」
「思わないさ。」

全身を覆う鎧を外した光の戦士は、天幕の中で揺れるランプの明かりを見つめながら呟きを重ねる。それにまた俺が言葉を重ねると、天幕の中はまた静かになり、夜の静寂が耳に届く。静かな夜だと、思った。
うっすらと照らされた水晶の瞳は、俺を見ることはなく。きっと思い人である青年を−今日の朝から遠征に出ている、フリオニールを想っているのだろうと、容易に想像できた。そしてこの発言も、きっと彼に関係することだということも。

「『彼』が、自分の世界の話をするのを聞く度に、思うのだ。どうして私には、『彼』に話して聞かせる過去がない。自身に関する情報が…今の私の存在を裏付ける確固たる過去がないのだ。」

語るというより、独り言を呟くような、その声。思い悩むというより、自分自身の心情を言葉にすることで感情として認識仕様としているような、そんな、儀式的なそれはやはりどこか神秘的で。親友の中性的な美しさとは違う、神々しさを孕んだ美しさを纏うこの男。そんなこの男にこんな顔をさせるあの青年の、なんと罪深いことか。

「その、『彼』とやらが、お前に話せとせがんだわけではないのだろう?」
「…そう、だが。」

そう言って、彼はようやく俺の目を見た後、その瞳を伏せる。胡座を組んで顔を伏せたままの彼。何も思い出せないこの世界で、見つけた『たったひとつ』に、真剣に、誠実に、そして懸命に向き合おうとする、勇者でもなんでもない、ただ一人の男。
その姿が、俺には眩しくて。

「だったら、いいだろう、それで。それに。」
「記憶など、過去など。いいものではない。時に、枷でしかなくなるのだから。」

心に留めておくべき言葉、が、唇からこぼれ落ちる。

「きみは過去に、足を取られているのか。」
「いや。」

それを掬い取った男は、光の勇者の顔をしていた。
今し方までそこにいた、ただの男はもうそこには居ない。

「過去、なんて、」
「生やさしい言葉ですむそれでは、ないさ、」

(そうだ、俺の、これは。)
(背負って行かなければならない業で、)
(償い続けなければならない、罪だ。)

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120109

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