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01/01.

*現パロです。
*ラグナさん27歳ですがスコールのお父さん注意。(血の繋がりはない的な)



人、人、人で賑わう神社の境内。お賽銭箱に五円を投入、威勢よく手を叩いて参拝客の列から外れる。たったそれだけの儀式的な、それを。わざわざオレと一緒にしたいと言ったこの子供は、どんな思いで新年を迎えたのだろう。

「神様に何頼んだ?」
「んー?」

紙のカップに口を付けて、一口。今だに人の波が引かない境内に、二人。少し冷えた身体に染みこむ、甘さと暖かさ。初詣客で賑わう神社の屋台で買った甘酒は絶品で、自然と頬が緩んだ。(新年早々こんな美味いモンが飲めるなんて、幸先良いぜぇ!)
『去年』が終わって、年が明けて、最初の日。空は晴れ渡り、きいん、と冷えたこの空気すら清々しく感じるそんな快晴。朝が来て昼が来て夜が来るってことも、次の日になるまで二十四時間だってことも変わらないけれど−やっぱりどこか、特別な、一日。そんな、そんな。ちょっと特別な日に、一緒に初詣、なんて。普通こういうのは、家族か友達か恋人とすべきはずのイベントじゃないのかなって、おじさんは思うんだけど、さぁ?

「あ、聞いちゃいけないんだっけ、こういうの。」
「そうだっけ?」

オレのとなりに居るのは、十歳も年下の高校生の少年。
勿論彼にとってのオレは、親でも兄弟でもないし、友達…でもないし、まして恋人でもない、学校の友達のおとーちゃんであり、オレにとっての彼は、息子のお友達である。

本来この位置にいるはずの可愛い息子は、初詣にいこうぜ!なんて威勢よく大晦日に我が家のドアを叩いた学校の友達・ジタンくんと、何処で知り合ったかは不明のさすらいのスーパーアルバイター☆バッツくんと一緒に、オレ含む四人で仲良く年越しそばを食べたあと三人揃って近所の神社に出掛けていってしまった。(付いていきたかったんだけど、おじさんに深夜の街を徘徊する体力はないのよ…)
で、一人寂しく年を越して…じょじょの鐘(だっけ?)を聞いた後一人寂しく床について、朝。初詣に行こうと家に来たこの少年、ヴァンくんに誘われるがままにここにきた、というわけだ。
普通、友達の父親を初詣に誘う奴がいるだろうか?そして、息子の友達と二人っきりで初詣に来たりするものだろうか?うんうん、おかしいだろ?オレもそう思う。だって、実際の所おかしいのだ。だって、だって。

このヴァンくんという名前の少年は、十歳も年上の成人男性(友達のとーちゃん)である、このオレを。
愛している、と言うのだから。

(それを甘受しちゃってるオレも、まともじゃねーなぁ、まったくよぉ…)

「どうだっけ?まあ、別に隠さなきゃマズイことなんか頼んでないけど…ラグナは?」
「えっと…家内安全と、健康祈願?今年はあんまり足つったりしませんよーにっと、あとスコールがもっとパパに優しくしてくれますように!かな。」

どこから湧いてくるんだっつーくらいうじゃうじゃいる参拝客の集団から少し離れた木の下で、折角だし甘酒以外にも屋台で何か食べるか、なんて、ちびちび甘酒をすするヴァンくんに提案してみる。ヴァンくんは白い息を吐き出しながら真顔で、新年早々煩悩の塊だな、なんてツッコミを入れきた。安定の真顔率である。黒目がちな瞳は今日も何を考えてるか分からないけれど、それもこの子供の愛嬌というかチャームポイントなのだ。
そんなヴァンくん。日が照っているとは言え、冬の外気に晒された彼の鼻はちょっと赤くなっていた。うーん、風邪でも引かれたら大変だし、何か買ってちゃっちゃと帰っかーなんて考える。まだスコールは帰ってねーかなあ。だとしたら家で…なんて、息子の友達と、息子抜きで居ることを当たり前に考えている自分に気付いて、ちょっと。ほんのちょっとだけ、思考が止まる。
罪悪感とか、背徳感とか、そういうのが無いと言えば嘘になる。いい年した大人が、未来ある青少年を、…そういう方向に導いてるって、事実。正しくは、道を正してやらないっていう、そういう、罪意識。そして、オレのことを何より大事に思ってくれていたあの人への、最愛の息子への、罪悪感。
でも、それでも。これが、この関係が、この子供が。オレにとってかけがえのない、大切なものになりつつあるのも、どうしようもない事実で。
(うわ、オレ、今、最低なコト考えてる。)

「オレは去年と同じだよ、」

唐突に。いや、実際はそんなこと、ないんだけど。隣で同じようにカップに口を付けたヴァンが呟いた。ん?何がだ?不審に思われないように微笑んで見せながら、ちょっと温くなった甘酒を飲みつつ促すようにヴァンに尋ね思考を彼の発言にシフトする。一瞬でもネガティブなことを考えてしまったことなど、年下のこの子供に関知されちゃ大人の男としてどーよって話だし!(この子ったら妙に勘が良いし、なにより発言がいつでも突拍子ないからな、気が抜けないんだ!)
オレの顔をじいっと見ながら、ヴァンが呟く。言う。オレの目を見て、その、つぶらな瞳にオレだけを映して、

「今年一年と言わずラグナの残り人生ぜーんぶ、オレにくれって頼んだ。」
「ぶはぁ!!」

とかなんとか、言っ、た!!
驚いた、ってか、カップを口に付けたまんまだったから、思わず甘酒吹いちゃったじゃねーの!慌てて何とんでもないこと言ってんだ!!って言おうとしたら、今度はむせた!!踏んだり蹴ったりとはこのことですね!

「無事か?」
「げほっ…し、新年早々何を…ま、間違ってないか?それ…普通はほら…そういうことって神様に頼むんじゃなくよう…」
「そーなのか?」

ヴァンくんの斜め上っぷりはいつものことだけど、今回ばかりは驚いた。そこは家内安全健康祈願じゃねーのかよ!何そのプロポーズ!!初詣でお願いする内容じゃないでしょうが!!おじちゃんをどうしたいの貴方!!あーもう、吹き出したせいでカップを持っていた右手がべっちょべちょになっちまったじゃねーかぁ…!!空いてた左手でとりあえず口の周りを拭ったけど、そこで気付いた。どうしよう、コレじゃハンカチもティッシュもだせねーじゃん…!!
両手が甘酒まみれになったいたいけなおじさん(オレ)をそんな危機的状況に追い込んだ張本人は、間延びした返事をしてから頭を掻いて見せる。ヴァンくんの(ある意味ハイレベルな)発言には慣れたつもりではいたけれど、これはびびった。それこそ、甘酒を吹き出してむせちゃうくらいには、びびった。おかげでさっき考えた嫌〜なコトも吹っ飛んでしまったけれど、やっぱりヴァンくんという少年はオレの予想の遙か彼方をぶっ飛んでいく青少年なので、これだけで終わるはずもなく。

「…だな、違うな。頼むんじゃなくてもらったからって報告しなきゃ。」
「え?お願いするんじゃないの?決定済み事項なの?」
「え?」
「っっじゃないでしょキミ!!確実に何か間違ってるよ?!おじさんでもおかしいって分かるよ!!そもそもそう言うのは…えーとなんだ?ご両親に娘さんを下さい的なのは神様にお願いとか報告とかするものじゃ…」
「じゃあ何が間違ってるんだよ。ラグナのことが好きなのは事実だし、オレはあんたを放す気ないんだからどこも間違ってないだろ?スコールにはもう許可取ってるし、あんたの嫁さんには墓参りついでに報告してきた。」
「おおおう……新年早々何そのイケメン台詞…っていうかレインの墓に花供えたのおまえだったのか!!」
「うん。惚れ直してくれていいよ。」
「…おまえにはホント…かなわねーよ…。」

追い打ちをかけるように続けられる相変わらずのヴァンくん節に、オレはただただ呆れるばかりで。
若い子ってみんなこうなのか?なんたってまあ、オレみたいなおっさんつかまえて、そんな、こんな。まっすぐにオレを、見て。
(新年早々心臓にわるいっての、)
これ以上は何を言っても勝ち目はないと察したオレは、小さく息を吐いて口を閉じた。しっかしまあ、スコールはともかく、嫁さんの墓前で報告、だなんて。オレの罪悪感は?葛藤は?この子相手だと、本当に、もう。どうでも良くなるワケじゃないけど、さ。
(ついついおまえの手を取りたくも、なっちまうって。)
おかげさまというか何というか、いつも通り、この子のペースに巻き込まれて丸め込まれて、そんで、救われている自分が居て。どうしようもないって分かっちゃ居るけど、この子供が、この、ヴァンが。
好きなんだよなって、再認識してしまうオレが居て。

「…来年も二人でこような。」
「………ぉう。」

そう呟いて、ポケットからティッシュを出したヴァンが、甘酒まみれになったオレの手を丁寧に拭いてくれた。その手を見つめる目がすごく優しくて穏やかで、それがなんかくすぐったくて、オレはマフラーに隠した唇で、小さく返事をすることしかできなかった。

新年明けましておめでとう、な、記念すべき今日この日。天気は快晴、甘酒はうまい。そんな、ちょっと特別な、一日。もう詣でっちまったし、神様の前じゃないから、ここでお願いしても御利益ないかもしんねーけど、それでもオレは、頭んなかで神様にお願いすることにした。
今年一年と言わず、この子供がずーっと笑っていられますように。願わくば、ずっと。オレもコイツの傍で笑って、いられますように。って。


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20120304


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