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輝けるものたちへ *2*

闇の世界、とはまた少し違う、禍々しい魔力に満ちたこの場所は混沌の大地という。
俺のいた世界ではないこの場所は、いつか見た星々の一つなのだろうか。

「ラグナ!…ッくそ!」
「ほう?」
「避けましたか。」

仕掛けられた罠に気づけなかったのは完全に俺の注意不足だった。突然現れたひずみに飲み込まれ、現状を把握する前に打ち込まれた光線は反応の遅かったラグナの身体を貫いた。その身体を庇うように立ちガンブレードを構える。ちらりと見遣ったラグナはうずくまったまま腹部を押さえていた。ああ、アンタらしいよ。どう見たって重傷なのに、俺たちに心配掛けまいと歯を食いしばって声を上げないようにしてるあたり、憎いくらいに、アンタらしい。
俺たちをここに引きずり込んだのであろう、見覚えのある混沌の戦士−皇帝と、アルティミシアは、そんな俺たちを嘲笑うかのように高圧的に微笑んだ。

「まあ、これくらい避けて貰わねばつまらん。そちらの銃士は、我らと戦う資格すらないだけのこと。」

虫けらでも見るかのようにラグナを一瞥する皇帝の発言に、隣で同じくガンブレードを構えるスコールが肩を揺らす。明らかに神経を逆なでされた、少年。この手の相手の常套手段に簡単に乗ってしまうあたり、この子供はまだ未熟だ。そんなスコールを、此処で戦わせては、いけない。
(ああ、まるで、)
(あの時、みたいだ。)

「ラグナを護れ。スコール。」
「ッだが!」

弾かれたように声を上げたのは、俺より一回り小さな体躯の、俺。

「お前が護れ!」

声を張ったのは、やっぱり、俺で。大切な人を護れなかった、俺で。
(だから、だから、)
今度は、俺が。

「…ッ、レオン…!」
「大丈夫だ。俺も後から必ず行く。」

一度だけ、スコール、に、視線を送る。スコールは見たことのない、不安そうな顔をしていた。いつだって眉間に皺を寄せていた眉が、鋭い眼光で見据える瞳が、きつく噤まれた唇が、全部が全部、訴えかけてくる。嫌だ、って、一緒にいこう、って。
あの時の俺も、きっとこんな顔を、していたんだろうな。俺たちは、どこまでも、同じ存在だから。

そんなスコールの肩を叩いて、いけ、と促す。それから俺は振り返らなかった。二人を、見なかった。遠ざかっていく二つの気配をただ、感じながら。




「解せぬ。」
「何がだ、皇帝。」

少しの沈黙の後、ご丁寧にもスコールとラグナがデジョントラップに完全に飲み込まれるまで待っていた男がようやく口を開いた。爬虫類のような切れ長の瞳には、何の感情も感じられない。かつん、と響く靴音。踵の高い靴は纏う金色と同じ趣味の悪い黄金だった。

「何故貴様がここに残った?今し方逃げた連中は、明らかに貴様より戦闘力に劣る駒だ。理解に苦しむな、どうして貴様ら無能な道具共は、自分より弱いものを守ろうとするのか。そうやって弱い者を生き延びさせ−自分は消えていくのか。」

理解に苦しむ、だなんて。理解しようとも思っていない癖に、いけしゃあしゃあと。
思ったことは言わなかった。(惑わされてなど、やるものか。)
勿論構えたままのガンブレードはそのままだ。

「まさか、自分とアレを重ねたか?同じ魂を持つ小僧と、その者と同じ血の臭いがするあの男を、過去の自分と父親と重ねてしまったのか?アレらはお前ではないぞ。」

そう言って、金色を纏った帝王はひらりと空中で掌を掲げてみせる。そこから生まれた闇色は、ゆらりと宙を舞い、男はその暗闇越しに俺を見る。あふれ出る魔力が可視化したものだろうか。得体は知れないが、俺にとっていいもの、ではないだろう。

「ほほう、見えるぞ?貴様の世界は闇に飲まれたようだな、そして貴様は父親を犠牲に−」
「プライバシーの侵害か、そのファッションと同じで悪趣味だな。」
「フフ、」
「…ほう。」

だから。惑わされてなど、やるものか。(俺のすべき事は、たった、ひとつ、だから。)
吐き捨てるように言うと、今まで口を閉ざしていた魔女が、口元を隠して恭しく笑う。ぴくり、と眉を潜めた皇帝が面白くて、俺は、笑った。

(そうだ。)

「確かにあの二人は。『あの』スコールは、俺じゃないし、『あの』ラグナは俺の父さんじゃ、ない。だが。」

構えたままのガンブレードのグリップを握り直し、刃を、意識を、敵に向ける。
真っ直ぐに。俺の足を、俺の腕を、俺の心を乱そうとする闇など、振り払って。

「『あの』二人は、」
「俺が命をかけて守るに値する−仲間だ!」

そして、俺は地面を蹴る。あの時に出来なかったことを、あの時の俺に出来なかったことを、するために。
今度は俺が、アンタを守るよ。お前を守る。絶対に。だから、アンタは、お前らは、光に満ちたその場所で、笑っていてくれ。そう、願いながら。



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111218

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