お題*ミシア様と皇帝。ミシア様目線。
「時間を圧縮して、過去と未来を現実と縛り付けようというのだな。」
肩書きなど、称号など意味を持たないこの不確かな世界で、皇帝を名乗る目の前の男は、爬虫類を連想させる切れ長の目を細めて笑う。
「ええ、貴方がしようとしている、『支配』と同じ事でしょう?」
同じように私も、微笑んで返す。特段何かが面白かったわけではない。笑み、とは、感情を表すために浮かべるものではない。笑みとは武器であり、盾。私たちは笑うのだ。相手に思惑を悟られぬ為に。
「いや、違うな。」
私の問いかけに対して、否定するその男。長い睫毛を伏せたのもきっと、言葉に魔法をかけるため。私は知っている。この男は魔法使いなのだ。唇から、瞳から、毒のような魔法を放つ。私が魔法をつかうのと、同じように。
「貴様は失いたくないのだろう?」
そして、この男は、私に魔法をかけようとしている。
「今という瞬間を。過去に奪われたくない。だから、」
まるで私の考えなどお見通し、と言わんばかりに、薄い唇が音を弾く。うっすらと紫が乗った唇。きっと彼は、ここから沢山の魔法をつかってきたのでしょう。他者を蔑み、陥れるために。彼にとっての理想のために。
「だから、」
(だけれども。)
「貴方と同じでしょう。」
魔法を使えるのは私とて同じ事。
人の用いる言葉の魔術など、魔女である私の前ではお遊びに過ぎません。
「全てを掌握することができれば、全て私の思い通りになる。」
あなたが全てを支配する皇帝であると同時に、私は、魔女。
「そこに、私以外の意志など、存在しない。」
(そう、私は、唯一の存在になる前に、)
(私が私である証を、求めている。)
「…ああ、同じ、だな。」
口元の笑みはそのままに、私たちは牽制し合う。
この不確かな世界で、肩書きなど、称号など意味を持たないこの世界で、彼が、私が。
皇帝でありつづけるために。
魔女でありつづける、そのために。
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111031