お題*セシルとカインでカイン目線
(卑怯だと思う。俺は、自分がこの上なく卑怯で矮小で脆弱な人間だと、自覚している。)
花が舞うような空気感。女子供特有の、楽しそうな、無邪気な笑い声の輪。
俺がウォーリア・オブ・ライトとの手合わせから戻ると、天幕を張った聖域の一角に、俺とは縁遠い異質な空間が構成されていた。なんの騒ぎだとわざわざ首を突っ込もうという野次馬根性を持ち合わせているわけでもないので、通り過ぎようと歩みを進めると、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「カイン、戻ったんだね、」
賑やかな輪から抜け出して俺の方に向かってきたのは、俺と同じ世界から来た親友。
華やかな空気を纏った、セシル。整いすぎていると言っても過言ではない、美しいひと。女性に混じって会話をしていても違和感がないコイツだが、凛とした佇まいは騎士を冠するに相応しく、それがなお、美しさに色を添えている。
セシルが、不意に微笑んだ。控えめに口元を隠す仕草はやはり恭しく、見慣れたものであるというのに、瞳を奪われる。
「さっきティファに、僕たちが兄弟みたいだねって言われたんだ。」
「俺とお前が、か。」
そう、と、肯定するセシル。彼を比喩する言葉を紡ぐなら、月夜に咲く花。青く光る月のように、穏やかで、でも強く、美しい。
それがこの男だった。それが、俺の知る、セシルという男だった。
「まだよく思い出せないんだけど、僕たち、小さいときからずっと一緒だったんだよね?で、ずっと一緒に旅をしてたんだよね?」
もといた世界の記憶がはっきりとしている俺と違い、セシルは記憶が曖昧で、思い出せないことが多いしないのだという。それが俺は嬉しくもあり、少し、恐ろしかった。
「カインが一緒にいてくれるんだ、この戦いだって一緒に乗り切れるよね。これまでと、同じようにさ」
セシルが、この紫が、何の疑いもなく俺を見つめてくるのが、怖かった。
「カイン?どうかした?」
「…いや、なんでもない。」
小首を傾げる、親友を。
俺は、護りきることができるだろうか。
「セシル。必ず、勝つぞ。」
「ああ。頼りにしてるぜ、」
そう言って、花が笑う。
眩しいほどのその笑顔は、いつか見たそれと寸分違わず美しくて。
俺は、頷くことすらできず、ただ、祈った。
(もう二度と、セシルを悲しませることのないように、と)
(誓うことではなく、祈ることしかできないなんて、)
(なんて、卑怯、な)
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111030