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あの日の僕らを抱いて

(何がいけなかったのか)
(どうしてこうなったのか)


だだっ広い、ただ空だけがある要塞を選んだのは、ここがこいつのお気に入りの場所だったからだ。お気に入りの場所で、大好きなキミと二人きり。そんなシチュエーションですることと言ったら愛を囁いたりなんだりといろいろあるはずなんだけどなあ、どうしてこうなっちゃったんだろうか。
ただ、好きだったのに。
ただ、敵同士だったんだ。

「なんの、つもり?」
「なんのって何のことかな?」

ひゅうひゅうと風が鳴く。おかげで乱れた髪はそのままに、オレはひとつ息を吐いた。もちろん構えたショットガンの銃口は、目の前のこいつに向けたまま。
指先一本で簡単に人を殺せてしまう凶器の向こうには、小さな口を、いつでも口角の上がった唇をはくはく忙しなく開いたり閉じたりする、一人の少年がいる。

足元に散らかった美味そうな果実は、たぶんオレのために取ってきてくれたもの。視界の端に転がったそれを見なかったことにして少年を見つめると、呼吸の合間にぎりぎり食い縛った歯が見える。ぽたりと落ちた汗は、きっと冷たいんだろうな。
ああ、痛いだろうよそりゃ。利き腕のど真ん中に、穴開けられちゃったんだから。
そんな状態なのに、そんな状態だから?かな。目の前の少年はだらん、と垂らした右腕をそのままに、左手で銃を、とる。…痛々しいねえ。他人事のように考えてしまうのは間違いなく、現実逃避だ。

どうしてこうなっちゃったんだろう、なんて今更カマトト振る気は更々ない。だってこれは決まり切っていたことで、分かり切っていたことで。ついでに言うと…何回も繰り返してきたことだからだ。

「…痛い?」
「痛い、どころの、話じゃないくらいには、…痛い。あんた、」
「んん?」
「あんた、オレのこと好きだったんじゃなかったの」

そう呟いてオレを見る瞳は、明らかに嫌悪感を抱いていた。今まで数えるほどしか見たことないけど、確実に何度か拝見させてもらったことのある、それ。…できることなら見たくなかったなあって、前ので最後にしたかったなあって心のなかでぼやきながら、オレは精一杯のいい笑顔を浮かべて―…喉の奥から込み上げてくる何かを、押し込めた。
痛いよな、痛いに決まってるよな。辛いよな、おまえ、オレのこと大好きだったもんな。


「好きだよ?大好きだ、愛してる」

嘘くさく聞こえちまうだろうな、こんな状況じゃ。でもこれは間違いなくオレの本心だよ、ヴァン。
心のなかで呟いて、心のなかで謝って。全部自分のなかだけで済ましちまうこんな大人で、本当に申し訳ないなって思う。

(どうしてこうしなきゃいけないのか)
(どうしてこうならなきゃいけなかったのか)

上手くいかない。思う通りにならない。不条理ばかり掻き集めてつくったこの世界はいつだってオレたちに冷たいんだ。
ある日突然神様に呼び出されちまったのだって、そこでいきなり戦えだなんて。そんなのオレは望んでないってのに、そういうことになってて。
出会わなければ良かったって何度も後悔して、初めましてを繰り返す度にキミへの思いを自覚して、積み上げたものを崩すのはいつもオレ。

何も知らない、オレを知らない真っ白なキミは、それでも笑ってこう言うんだ。
ラグナ、大好きだぞ、って。


「好きすぎて殺したくなったんだって言ったら、笑うか?ヴァン」
「…そーか」

勿体ぶったみたいに間を空けて、ヴァンが言う。

「オレもあんたが好きだから―…殺すな?」

その声色は凄く冷たくて、凄く切なくて。だからオレは、笑うしかなくて。

「喜んで」

張りつけた笑顔のまま、オレは引き金を引いた。
心のなかで泣きながら。
心のなかで、次はオレなんかのこと、好きになっちゃダメだぞって、叫びながら。


(同じことを繰り返す度に)
(キミがもっと愛おしく感じる)
(この感情はきっと、間違っている)

*****
140329 面影橋

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