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ドリーム・スター

(星が願いを叶えてくれるなんてありえないと、おまえは笑うだろうか)
(星に願うなんて夢見がちだと、おまえは笑うだろうか)

太陽の沈んだ世界は闇に包まれていて、空に散らばった星々は濃紺の空によく映える。天幕に戻るべく歩みを進めながら見上げた夜空には当たり前のようにそれが瞬いていて、日々の戦いですり減った心が少し癒される気がした。

「なーんで夢ってのは、いつか必ず醒めちゃうんッスかね」

そんな静かな夜に、隣を歩くティーダが呟いた。
いきなりどうしてそんなことを言いだしたんだろうかと黙っていると、ティーダは続ける。

「どんなに憧れても夢の世界は現実にはならないし。朝起きてちょっとたったら忘れちゃうしさ。だったら最初っから夢なんかみてもしょうがないって思わないか?」

夢から醒めた後の、ちょっと虚しい気持ちには俺にも心当たりがある。きっとそれは誰だって一度は感じたことのある感覚だと思う…けれど。なんでいきなり夢の話なんだ?
両足は止めず歩き続けたまま、隣を歩くティーダを眺める。両腕を頭の後ろで組んだまま夜空を見上げるその横顔には、いつもの笑顔が、なかった。いつもと同じように、口元は笑っている。でも、星を映すその両目が、なんでかな、空っていうよりどこか遠くを見ている気がしたんだ。

(怖い夢でも見たのか?…いや、とても楽しい夢を見て、虚しくなったんだろうか)

ティーダは賑やかな仲間たちのなかでも特に明るくていつも快活に笑うけれど、たまに、本当に珍しいことだけど…こんな風に物寂しい顔をすることがある。それは儚くて、魅入ってしまうほどに綺麗なんだけど…やっぱり俺は、ティーダには笑顔の方が似合うと思うんだ。

一つ、夜風が俺たちの間を吹き抜けて、水浴びしたばかりの冷えた身体を撫でていく。
心地よい風だ。大きく息を吸い込むと、胸の奥がすうっと透き通る気がする。
二つの瞳を根本だけが黒い金髪から満天の星空へ移して。
隣に居るこいつと、同じ星を眺めて、同じ景色を心に刻んだ。
三歩、歩いて。
俺は口を開いた。

「でも、」
「ん?」
「寝ているとき以外でも、夢はみられるんだぞ?夢をみることはいいことだ、何事も頑張ろうって気持ちになれるしな」
「…どれだけ見てもタダだし?」
「ああ、タダだし」

会話の土俵が違うことは分かっている。ティーダの言う夢は眠っているときに見る夢で、俺の語る夢は生きていくために掲げる旗で、道を切り開く剣で。
だからこの会話は噛み合うはずなんかないのだ。ただ、こいつと、二人。何気ない言葉のやりとりを、二人。そんな戯れが、俺は好きなんだ。ティーダと言葉を交わすのが、っていうより…なんだろうな。
俺の顔を覗き込むように一歩先に踏み出したティーダの顔は、いつもより少し、どこか寂しそうだったけれど、でも、やっぱり。

「っはは、フリオニールらしいッスね!」

だってほら。
月明かりと星明かりしかないこの世界だって、こいつの笑顔は、こんなに眩しい。
夜空に輝く星よりずっと、きらきら、していると思った。
きらきらしていて、胸がきゅうっとして、温かくなるんだ。
そうだ、おまえは。
こんなに眩しくて、こんなに、俺を幸せな気持ちにしてくれる。

「オレも一緒に夢を見られたらいいのになー」
「なーに言ってるんだ。俺とおまえは、もう、同じ夢をみてるだろう?」

この戦いに勝つっていう、夢を。
全く仕方ない奴め、って。くしゃくしゃに髪を乱しながら頭を撫でてやると、ティーダが笑った。まん丸な瞳を優しく細めて、白い歯をにいっと見せたこいつの笑顔が、好きだ。擽ったそうに鼻の頭を掻いて、照れたみたいに元気よく走り出すこいつが、好きだ。
無数に瞬く星の世界を、ティーダと二人。
いつか必ず別れはくる。こいつに俺にも、帰る世界があるんだから。
だから、その時までは、一緒にいよう。ティーダが笑っていられるように。ティーダの隣にいられるようにっていう、夢を見続けよう。

「なんなんスかもう!フリオニールのくせにカッコいいコト言うなよなー!」
「なんだその勝手な言い分は」
「…へへっ」


星降る夜に、おまえとふたり。
でも、本当は―…ずっと今が続けばいいって。ずっと一緒にいられますようにって。
俺が星に願ってたってことは、秘密だ。


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130528


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