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帰る場所を見つけたから

「…で、これはなんだ?」

「なんだってなに?」

「あら、何かしら?」


握りしめられたの両手を交互に眺め、溜息まじりに問いかけた。
当の本人たちはというと、あっけらかんとそう答えただけだ。

(あー…相当怒ってんのな…。)


クオイの森を抜け、ザーフィアスに向かう道中。ラピードの粋な計らい(かどうかは分からないが)で、一人でアレクセイを討ちにいこうとしたオレは見事に仲間達に追い付かれ、愛の篭った鉄槌を受けた。
…オレの取った行動は、オレなりの…みんなへの、エステルへの気遣いだったつもりなんだが、みんなはそれをよしととらなかった。
それは気遣いのつもりだっただけで、あくまでつもりでしかなく、みんなは口々に仲間なんだから一人で勝手なことをするな、と言っていた。
当たり前のことだとは思う。それを踏まえてオレはラピードだけをつれて宿を出たのだ。

咎められて当然だ。
でも、これが間違っていたとは思わない。


「何って、ねぇカロル?」

「ユーリがまた一人でどっか行っちゃわないように捕まえてるんだよっ!」


右手にはカロルの左手が、左手にはジュディの右手が結ばれている。
カロルの奴が、口で言うようにオレが一人で行くのを阻止しようとしているのではないということは分かっていた。カロルの保護者代わりとして旅をしていたのは昨日今日に始まったことじゃない。オレがコイツからいきなり姿を消したりしたらどうなるかなんて、分かりきったことじゃないか。

不安だったんだろう、と思う。
繋がれた右手に伝わってくる震えは、きっとそのせいだろう。


「ね、ユーリ。」


大きな丸い瞳に写る自分の顔が思うより情けなくて、オレはカロルの手を握り返す。
ジュディの方はきっと面白半分といった所だろうか。垂れ目がちの瞳を優しく細めつつ俺とカロルのやり取りを見守っていた。


「もういなくなったりしたら、嫌よ?私もカロルも泣いてしまうかもしれないわ。」

「おっさんもリタっちも、ね。」


前を歩いていたレイヴンがくるりと振り返り、リタが少し頬を赤くしながらそうよ、と睨んでくる。
オレたちの当たり前がそこに、あった。
足りないのは、ひとつだけで。


なんだかくすぐったくて、嬉しいような恥ずかしいような、そんな感情に少しだけ戸惑ったのは確かで。オレは大きく息を吸い込んだ。

「よし、分かったぜお前ら。オレについて来やがれ。」


足りないひとつを取り返すために。
大切な仲間を取り戻すために。

オレ達は前に進む。小さな一歩を、みんな、で。



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091011 TSUBASA*hope

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