劔
突然現れたユーリを狙う男と、破られた逆結界から溢れるように出て来た魔物達。
それを縫うように作業着の男が走り去ったと思えば、今の今まで剣を交わしていたユーリは踵を返し僕に背を向けて。
「ユーリ!!」
思えば僕は
「わりいなフレン、あとは頼む!」
いつからかあの背中ばかり見ている気がした。
僕たちはずっと同じ道を歩いてきているものだと思っていた。
等しく下町で育ち、この理不尽な運命を己の力で変えてやろうと、捩伏せてやろうと志し、剣をとって。
騎士と言う名の帝国のために振るわれる剣になって、帝国に仇なす悪を切り、やがて自ら騎士を率いて帝国の未来を切り開いていく。正しい者が、正しく生きていける世を。そんな理想を、そんな夢を抱いて、同じ道を歩いていたはずだった。
でも、いつからかユーリはその足を止めてしまった。
道を歩むのを止めて、前を向くのすら止めてしまったのだ。
理想から目を背けるように。
いつだって隣にいた僕をそのままに。
「っく…!」
「フレン隊長!援護致します!」
ウィチルが魔物に向かって術を放つ。
無数の火の玉が魔物を薙ぎ払い、断末魔がこだまする。
観客席を見上げると、市民の避難もあらかた型がついたようで、疎らになった魔物達を騎士たちが追い詰めているところだった。
騒然としていたこの場も徐々に落ち着いて、舞い上がる砂煙りで曇っていた視界も澄んでいく。
それは僕の感情に似て、静かに、静かに落ち着いていった。
沈みゆくように…堕ちていった。
僕は、僕は。
いつかまたユーリが同じ道を歩んでくれると信じていた。
また、ユーリと並んで歩けると。そのために、僕は歩を止めなかった。
ユーリが追いついてくると信じて。
でも。ユーリは、同じ道を歩もうとはしなかった。
いつの間にか、僕の考えもしなかった違う道を選んで、その道を進み始めていたんだ。
もう、あの黒髪は見えない。
おそらくあの作業着に身を包んだ男を追って行ったのだろう。
「…どうしてっ…」
「フレン隊長!市民の避難、完了致しました!」
また、僕とは違う道を選んで。
「…市民の安全確保完了!総員!速やかに残りの魔物を駆逐せよ!」
剣を握る掌に無意識にこもる力を感じながら、僕は自分自身に言い聞かせるように繰り返す。
僕の目指す理想は
この剣の先に、あるのだと。
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090307
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