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無限回廊へヨウコソ。

それは、月のない夜のこと。



「あんたのせいだ。あんたが旦那と出会ったりしなかったら、俺は何時までもただの忍でいられたのに。」


音もなく、政宗の寝室の天井裏から降り立った忍。
哀愁漂わせるその低音は、実に落ち着いた声だった。

その突然の来訪者の出現に、伊達家当主伊達政宗は眉一つ動かさずに書を綴り続ける。


「あの犬がどうかしたのか?…そんなに大切なら、首輪でもつけて閉じ込めておきゃいいだろうに。」

「できることならそうしたいくらいさ。旦那を俺だけのものにしたい。でも、そんな事出来る訳ないし考えてもいけないわけよ。俺は忍だから。」


淡々と応え、政宗の傍に腰を下ろした忍は、真田に仕える忍集・真田十勇士の長、猿飛佐助。
決して、奥州筆頭の、自らの主である真田幸村の好敵手・伊達政宗の寝所に居ていい人物ではないはずなのだが、政宗との会話は実に穏やかであり、その立ち振る舞いも敵対するもの同士のそれとは程遠いものだった。




「最近、怖くて仕方ないんだ。戦うことが。」


うっすらと目を細め、遠くを、此処ではないどこかを見据える佐助。
ぽつり、と漏らした言葉は、普段の飄々とした彼からは全くもって想像出来ない声。言葉。…弱音。
普段の佐助を知る者がこの場にいたとすれば、十中八九今現在ここにいるのが猿飛佐助その人であるかどうか、疑ったであろう。

「死にたくない。」

「ンなの誰だって同じだろ。」

「でも俺は、死ぬことなんて怖くなかったはずなんだ。忍なんだから。」



ぐぐ、と、洗っても落ちない"紅"が染み込んだ右手を握る。
この手が、沢山の命を摘み取ってきたというのに。


「ねぇ、教えてよ」


「どうしたら、俺は忍にもどれるの。
どうしたら、俺は―――。」



続く言葉は、政宗の耳だけに届いて。
男の悲鳴染みた叫びは、夜の風に絡めとられ、消えた。



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091023 無題
(crow69の文章でした。)

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