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さよならの猶予時間、五秒。

首筋に突き立てた鋭利な刃。
刀身には切り捨ててきた者たちの体液がこびりつき、今、また新たに赤い、赤い雫がぽたり、と地面に落ちた。

「…殺せ。俺らにはもう戦う力は残ってねぇよ。」


得物である碇槍を大地に突き立て、どっしりと腰を落とした男は、どこか満足感の感じられる瞳を目の前の男に向けた。
その白い首筋に、所々紅黒い痕が付着した刀を突き立てられても揺るがない瞳。ひとつしかない瞳。
同じように、向き合う形で、されど決定的に違う立場・現実に置かれたもうひとりの男も。どこか満たされた笑みを浮かべ、一つしかない眼を細めた。

誰が見ようと、異常な、異質な光景であった。


今まさに自身の命が絶たれようとしているにも関わらず、白い歯列を覗かせながら笑う男も。その男に劣らぬ程、清々しさすら感じさせる笑みを浮かべる男も。全てが、騒然とする戦場の中では。

時が、世界が止まったよう、だった。



また、赤い、赤い雫が地面に吸い込まれて滲んでいく。

その間、僅か五秒。




「"鬼"にさよならを言いな、長曾我部元親。」




また、世界は動き出す。
銀髪の男は、口元の笑みをそのままに、ゆっくりと目を閉じる。

血と煙りの匂いがする戦場は、途方もなく居心地が悪かった。




*****
091023 ひとつしかない眼で見つめるそのさきには。
(crow69の文章でした。)


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