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いつだっていつだって。(僕、じゃない)



「俺にしたらいいじゃん。」



背後から聞こえた声は、声変わりの済んでいない少年のそれだった。
大切で大好きな親友と、崇拝に近い憧れの対象である彼女が微笑み合う様を、ただ呆然と見つめていた俺の背中は、どんな色が滲んでいたのだろうか。
その背中を見た年下のあいつは、そこから何を感じとったのだろうか。


「俺は慧靂兄ちゃんみたいに鈍感じゃないから、無意識に傷つけたりしないよ。優しくする。大事にするし。」


続ける声が、刺さるように痛い。
事実だから、余計に。


「だから。そんな顔しなくていいんだよ。」


しがみつくように、あいつが俺に抱き着いてくる。
回された腕は細くて短く、少し熱いくらいで。
でも、確かに。
力強くも、感じられて。


「鉄火兄ちゃんは、俺が守ってやるから。」


溢れた涙を零さないように、上を向いて。
馬鹿だなあ、と、ごまかすことも出来ず。ただ、ただ。


こいつに、じゃなく。
慧靂に、こんな風に言ってもらえたら、と、考えた自分を。

呪った。






*****



我ながらタイミングが良すぎた、いや、悪すぎた?うんまあ、どっちでもいいや。
大切なのはタイミングうんぬんではなく、この人に、いかに冷たく鋭く残酷な現実をたたき付けてやれるか、なんだ。


「俺にしたらいいじゃん。」



格ゲーブースにいた鉄火兄ちゃんを音ゲーブースに呼んだのは理由があった。


「俺は慧靂兄ちゃんみたいに鈍感じゃないから、無意識に傷つけたりしないよ。優しくする。大事にするし。」


クレーンゲームコーナーで、楽しそうに微笑み合う二人がよく見えるこの場所に呼んだ理由は。

その光景を、この人の網膜に焼き付けようと、思ったからで。




「だから。そんな顔しなくていいんだよ。」




それを見た、鉄火兄ちゃんが、どんな顔をしてるかなんて、想像するまでも無く。


別に傷つけたいわけじゃない。


違う。傷つけたいの、かも。
突き落として、そこに付け入ろうと考えたのは、事実。



「鉄火にーちゃんは、俺が守ってやるから。」


両手を広げて、鉄火兄ちゃんを抱きしめる。薄い背中は俺よりも一回り大きかったけど、ぎゅっと。鉄火兄ちゃんのことが大好きなんだよって、伝わるように。



面とむかってはっきりと好きです、なんて言う勇気もなくて、好きになってもらえる自信もなくて、ただ、狡猾にこの人を追い詰めて手に入れるために傷つけて。


しがみつくようにしか、抱きしめることのできない自分を。

呪った。





*****
090613 緩やかな嫉妬。


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