info text, top


B + G **

回想シーンからのスタートで申し訳ないが、まあ聞いてくれ。
正直こんな話は人にするもんじゃないと分かっているが、言葉にすることで自分の感情を整理したいという気持ちがあってだな。文章力云々があるかないかを問われれば、俺は自信を持ってそんなもん持ち合わせちゃないと答えるところだが、まあそのあたりも、目を瞑ってくれ。ボランティア精神、博愛精神、地球レベルの規模で物事を考えられる幅広い視野。読んでくれてるお前が、そういったものを持ち合わせていることを切に願ってるぜ。

バレンタインの近い、ある日の事だ。

「火、太陽、月、石、水、空、海、土、風、雲、雪。」

「ニクス!知り合いを当てはめるなら誰がなんのイメージや?」

特に予定もなかった俺は、いつものようにぶらりとゲーセンに顔を出したワケだ。
入ってすぐの俺を出迎えたのは、白黒コンビこと、彩葉とリリス。相変わらずスカート短ぇなあなんて、剥き出しの太股に一瞬見とれた。鬼兄とか言われてるセムは妹のスカート丈について何も思わないのだろうか、と思ったが、思っただけである。(口に出したら殺される。俺がセムに。)
唐突に突きつけられた質問の意味を考えようともせず、とりあえずベンチに腰かけたのだが、何やら妙に楽しそうな白黒コンビは俺の素っ気ない(自覚はある)態度にも全くめげず同じようにベンチに座ってきた。相変わらず二人ともチチでけぇなあ。

「なあニークス!全部あてはめんでええから、イメージする人言ってみてって」

俺の右隣に座った彩葉が、小首を傾げて問いかけてくる。
はてさて何のことだ?と視線を泳がせると、同時に左隣に座っているリリスが、さっきとさして変わらない声色で

「火、太陽、月、石、水、空、海、土、風、雲、雪。…デス。」

と言った。こちらは上目遣いだった。黒目がちの大きな瞳に見つめられて、なるほどこれは嫌な気分ではない。あー、白黒コンビと学園アイドル張ってんのは伊達じゃねぇんだな、なんてうっすら考えつつ、二人の言葉を脳内で解析する。
…きっとこれはあれだろう。お子様の大好きな、心理テスト、というやつだろう。

「はぁ。」

「あ。あんまり意識せんで自然にするっと出てきた人で頼むな?」

「はぁ。」

とりあえずまあ、真剣に答えてなる必要もないな、と思いつつ、思考を巡らせる。
イメージ、イメージか。とりあえず…石といえば、とうの昔に勘当してやった頭の固いクソ親父のことが浮かんだわけだが、それは口に出す必要など無いと判断したので、飲み込んだ。やはりここはこの二人にも面識のある、共通の知り合いの名前を出してやるべきだろう。それくらいのサービス精神は、持ち合わせている。(いつも眼福させてもらってるしな)

「…土が髭、雲が士朗。空ー…が、バンダナ。」

大概こういうのは、火とか太陽が好きな人とか大事な人とか、そういうケツのかゆくなる診断内容なのだろうと、察しの良い俺はそこを華麗にスルーし名前を挙げていく。他に思いつく名前が無くなって、最後に。

「月が、寿司屋。」

…一番最初に思いついた名前を小さく付け足して、口を閉じた。
とりあえず考えられる限りはこんな感じだ。間違っては居ない。実をいうと太陽がエリカで、火に鉄火(文字面を意識したワケじゃねぇぞww)とか、他にも何人か直感的なイメージも湧いたのだが、これは絶対好意とかそういうのだと察したので口に出さないことにした。俺は察しがいいのだ。きっと土と雲と空と月は当たり障り無いものだろう。なんとなくぱっとしないし。
そんな俺の回答を聞いた白黒コンビは一瞬ぱあ、と頬をほころばせた。
なんだなんだその反応は。ちょっと嫌な予感がして、なんだよ、と睨むと、彩葉が嬉々とした様子で話し始めた。

「おー、当たってるんやないの?」

「ハイです。…えっとデスね、これは、心理テストで、デスね。」

いや、それは分かってた。だから早く言えよ結果を。お前らが笑ってるワケを。

「回答した人が、イメージした相手をどう思っているか分かるテストなのデス。…土は、頼りにしている方。雲が、いつか離れていってしまうように思っている方。空が、親友。」

胸の前で両手を組んだリリスが、頷きながら言葉を紡ぐ。…頼りにしてるとか、親友とかは知らんが、確かに士朗をどこか遠い存在と思っているのはあたっているので、なんとなく、納得した、けど。おい、お前ら。
俺はもう一人の名前を、挙げただろう。
それは、どういう。
今度は彩葉が、言う。

「んでな、ニクス、月がな?」



******



「火、太陽、月、石、水、空、海、土、風、雲、雪。適当に人当てはめるとしたら誰が何。」

「うじゅ?お、心理テストですか!ニクスさんも心理テストとか好きなんで!」

「うるせぇ。十秒以内に答えねぇと処刑。」

「なにその俺ルール!!」

んで、回想シーンは終わりだ。途中でブッちぎった理由は察してくれ。察しの良い、ついでに顔もいい俺のように。
白黒コンビとの会話からほぼ二十四時間後。学校帰りの高校生連中がにぎわう、このゲーセン。
寿司屋の息子こと、鉄火と、俺。
昨日と同じようにベンチに腰かけ、昨日やられた心理テストを今度は別の奴にする、という、このシチュエーション。
ああ、我ながら滑稽だった。この俺が心理テスト?女子学生じゃあるまいし。恋愛小説大好きな、寿司屋の息子じゃあるまいし。気恥ずかしいのと、訳の分からない思いを抱えたまま、俺は中々答えない鉄火に催促するように睨み付けた。当然俺に逆らえない鉄火は、あわあわと小動物のように視線を泳がせた後、一丁前に腕を組んでうーん、なんて唸ってから考え始めた。俺はソレを、なんとも言い難い気持ちで見守っていた。十秒と言ったけれど、カウントダウンはしなかった。それどころでは、なかったからだ。ああ。
たかが心理テストに、何をこんなにマジになっているのかって?それは俺が聞きたいくらいだ。

白黒コンビの出してきた心理テストは、普段の俺なら鼻で笑うような結果、では、無かったからだ。
火、太陽、月、石、水、空、海、土、風、雲、雪。そこに当てはめた人物は、確かに納得できる、それ、だったから。
ではければ自分からしたり心理テストなど吹っ掛けたりするものか。
しかも、この赤毛に。

この、
密かに好意を抱いている相手に。

「んーっと、火がユーズさんで、太陽がデュエルさん、石ーは…学校の数学の先生で、水は…だれだろ。空が慧靂、海が…識さんとかかなあ。土は士朗さん、風はいないかな。雲も。雪、雪は、」

律儀にも全部当てはめようとするその姿勢には、このアホの忠犬気質が滲んでいる、と思ったが、正直俺はその選択肢のうちの一つしか興味がなかったのでどうでも良かった。強いて言うなら太陽にデュエル、土に士朗を挙げたのがちょっと癪だったが、まあ置いておいて。とりあえず、俺は待った。
コイツが月をイメージする、ただひとりの名前を。
帽子の鍔が妙に気になって、何度もずらす。うーん、と唸るこいつの声ばかりが頭に響いて、賑やかなBGMが全く頭に入ってこなくなった。ああ、何だ俺は、何を緊張してるんだ、と。今更ながらに自問自答。答えは簡単だ。ああ、みっともない、格好悪い、死ねばいいのに俺、でも聞きたい、馬鹿みたいだ。今日は黒歴史日だ。

「…駄目だ。」

「あん?」


そして、少し間を置いて、

「雪も、月も。アンタしか思いうかばねーや。ニクスさん。」

困ったように、笑いながら、鉄火は、そう言って俺を見上げた。




「ちょっとトイレ。」

行ってらっしゃい、と送られた背中は、今どんな色をしているだろう。顔は、見られていないはずだ、よし、よし、…ああ。
露骨に喜んでいる俺が、いる。中に、心の中に。それをなんとか押し込めて、俺はトイレに向かった。深々被った帽子を、もっと深く被って。熱い、頬を。隠して。あああ、どう、し、よう。
たかだか心理テストに、何をこんなにマジになっているのかって?それは俺が聞きたいくらいだ!!
腹のなかが、ぐるぐるする。気持ちが悪いのに、心臓までどくどく五月蝿くて、ああ、俺は死ぬのか?舌打ち、する。ああ、ああ、嫌だ。自分が嫌だ。
そんな俺の隣を白黒コンビがすれ違う。すれ違い様に服を捕まれ、名前を呼ばれた。

「なんだ、お前ら、」

鬱陶しい、と睨んで、はっとする。俺、今どんな顔してる?見られたら、やべーんじゃね?って。思って、顔を背ける。視界の端でリリスが首を傾げたのが見えたけれど、白黒コンビの白い方こと、彩葉は俺のシャツの襟をくいくい、と引っ張って、内緒話をするように片手でメガホンをつくって、囁いた。

「ニクス、言い忘れ取ったんやけどなぁ、あの心理テスト、鉄火くんにはやったらあかんで?」

なんで、と聞く代わりに視線を向けると、上目遣いの目が、二対。爛々と輝く瞳、に、
さっき俺を見上げてきた赤い目が重なったような気がして、またぞわ、っと、して。

「だってあれ、」

「鉄火くんに教わったやつやもん。結果しっとる人に試してもおもろないやろ?」

後ろであのガキが俺を呼ぶ声と重なった、彩葉の言葉。
今日は厄日だ。今日は黒歴史日だ。
頭の中は真っ白なのに、そんなことばかり、頭の中で、ぐるぐると渦巻いた。



































「あ、ちなみに月が好きな人で、雪が必要としてる人な。」

枚数にして四枚。両面びっしりに手書きの文字が書かれたルーズリーフの向こう側には、炬燵を挟んで俺の親友である鉄火が座っていた。そして右隣には同じようにルーズリーフに視線を落とすニクスが。三秒以上文字を見つめていると眠くなってしまう病気のアニキは、左隣から寝息を立てている。
ああ。一応説明しておくと、此処はゲーセンではなく俺、というかアニキの借りている部屋で、俺は白黒コンビのスカートの丈を気にするニートこと、ニクスではなく、白黒コンビを遠くから見守り、いつだって被写体として純粋な瞳で見つめている神崎慧靂である。そしてこのルーズリーフは。

「…お前コレ自分で書いたの、か、」

「そうだ!ちなみにほぼノンフィクションだじぇ!」

…俺の親友である、はずの、鉄火が書いた、自分と恋人の、実話を元にした小説、らしい。
…うわぁ、ついにコイツ、自分で恋愛小説書いちゃったよおお。ドン引きとまでは行かないが、こんなものを書かれて、ニクスは何も言わないのだろうか。自分の視点で、結構失礼なこと、書かれてるし。(主に白黒コンビへのモノローグとか)ニクスの性格を考えると、怒ったりしないほうがおかしい。そう思った俺はちらりとニクスに視線を向けると、丁度ニクスは読み終わったルーズリーフを丁寧に纏めている所だった。そして。

「第一弾よりはずいぶんマシになったな。」

「えへへ、褒められっと照れるなぁ。」

…と。
褒めた。え。コイツニクス?褒めたし。褒め、たよね。今。しかもナチュラルに!!っていうか第一弾って!!コレが初めてじゃねぇのな!お前らすげぇよ!!愛しあってんな!!
とは口に出さず、俺は心の中でまるで嵐のように激しくツッこんだ。口に出さなかったのがすごいってくらいの勢いで。(口に出したら負けな気がした。なんとなく。)

「これ、実話なのか?」

「ああ。最後がちと違うけど。」

まさか、と思って口にした問いかけは、何のこともないと言わんばかりの、あっさりとした回答に退けられる。答えたニクスの表情はいつもの仏頂面ではなく、緊張感のない眠そうな顔だった。別段怒っているわけでは無さそうだし、鉄火に小説を手渡す動作から不自然な感じはなかった。
…こういう風に、自分たちの名前を使った小説、というか、実際にあったことを文章に書き起こす(しかも日記式ではなく、小説風味に)ことはコイツらにとっては当たり前のことのようだ。ああ、知らなかった。世の中にはこんなことをしてしまうホモップルもいるんだぁあ、へぇ、知らなかった!えれきくんはひとつかしこくなった!

「実はこの話にゃ続きがあってだな。」

へー、正直どうでもいいわ、と半ば白けた視線で答えると視界の端で親友が慌てた様子でニクスの口を覆い隠そうとしていた。ニクスはそんな鉄火を軽くあしらいつつ、(鉄火の頬を片手で押しやって)にやり、と意地悪く笑う。あ、良かった、さっきから実はコイツニクスじゃねぇんじゃね?とか思ってたけど、大丈夫だ。安心した。コイツは正真正銘ニクスさんだ。

「この後俺がコイツにどういうことだって問いつめたんだよ、そしたらコイツ顔真っ赤にして逃げやがってよぉ。まあすぐ捕獲したけど。」

「ニニニニニクスさん!」

「んだよ。」

…なんというか、うん、まあ、

「お前らホント、仲いいよな…。」

そう呟くと、赤い目が二対、同時に俺を見た。
ああ、

「愛し合ってるからな。」
「愛し合ってますもんね!」

見せつけてくれるなぁ、と。俺は苦笑するしか無かった。
俺の知らない、きっと、鉄火以外知らないニクスの過去を、会間覗くことができるこの小説。きっと鉄火だから書けたんだ。分かり合ってるコイツらだから。そう思うとこのバカップルっぷりもなんとなく、憎めなくて。ただ純粋に。

(ホント、羨ましい限りだよ。)

と、そう、思うばかりだった。





「…ん、なんだ、帰ったのかアイツら…」

アニキが目を覚ましたのは二人が帰って暫くしてからのことだ。未だに重そうな瞼を擦りながら、身体を起こすアニキ。くぁ、と欠伸をして、背筋を伸ばして。その様が猫みたいだったので、少し笑えた。アニキの飼ってる猫は嫌いだが、アニキのような猫みたいな奴は、嫌いではない。むしろ、

「うん。今さっきな。…なあ、アニキ。」

鉄火が、アニキにも読んで貰いたいと置いていった小説を指先で撫でながら、俺は、

「火、太陽、月、石、水、空、海、土、風、雲、雪。適当に当てはめるとしたら、俺って何のイメージ?」

問いかける。尋ねる。
願わくば、アニキと俺の回答が、アイツらのように同じでありますように、と。
そう、思いながら。

*****
110407 三万打・六代目拍手御礼文
ちなみに
火→尊敬する人
太陽→自分にとってプラスになる人
月→好きな人
石→苦手な人
水→お互い気になる人
空→親友
海→親しくなりたいと思っている人
土→頼りにしている人
風→ひそかに妬んでいる人
雲→いつか離れていってしまうと思っている人
雪→必要としている人
DATTESA☆


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -