御手紙
髪を切ろうと決めたのは
君の隣空いたから。
「あっ、ふ、ぅん、っ」
両腕を背中に回し、しがみつくように、絡みつくように抱き付いて。
足の先から頭のてっぺんまで駆け抜ける快感に喉を反らせ、上手く出来ぬ呼吸の合間に嬌声を漏らす。
久しぶりの、抱かれる感覚は、格別だ。
日曜日の真っ昼間、世間様は家族や友達や、恋人なんかと思い思いの休日を過ごしているであろう今日この頃。
健全な男子高校生たる俺は、全く持って不健全な関係であるニクスさんと、不健全極まりないラブホの一室、しかも床で、不健全というより不健康、全く持って非生産的な行為に及んでいた。
下着ごとおろされたズボンは、辛うじて右足に引っかかっている程度で、俺の下半身を覆うものはなにもなくて。
露わになった肌を、滑るように撫でられれば、無意識にびくんと体が震えた。
「相変わらず感度いいな…」
うっすらと目を開くと、口角を吊り上げ、ニヤリと笑うニクスさんと目が合った。
ああ、そう。この、目。
「ん、ぁ…ニクス、さんも、相変わらず…彼女さん、は?」
「彼女?誰のことだよ、そりゃあ。…女はすぐ彼女面しやがるから面倒くせぇよな…」
「あ、そ…なんで、ああっ」
反り返った性器の筋をつうっと指先が伝い、疼き始めたそこへ辿り着く。
思わずそこを収縮させると、クク、と喉で笑われた。
「ここは?誰かに触らせたり、してねぇだろうな?」
ここ、を指し示すように、指先で円を描くようにそこを撫でるニクスさんの指が。ひどく、気持ち良くて。
「してま、せん…そこも、俺のカラダ、は、全部」
「俺のもの、わかってるじゃねぇか。」
上機嫌に俺の言葉にそう重ねて、ニクスさんは俺の頬にキスをしてくれた。
それが、うれしくて。
ニクスさんと俺は、俗に言う恋愛関係なんてもんじゃなくて。
ペットとか、玩具とか、そんな言葉が似合ってる、関係。
そこに感情なんかなくて、あるのは、所有者が玩具を気に入ってくれてる、みたいな。そんなお手軽な気持ち。
知っている。
ニクスさんは、他人と自分を対等に見ていない。
むしろ、自分以外を人と思っていないんじゃないか、と、思うことすらある。
だからこそ、分かってる。
ニクスさんにとって、アクセサリー程度でしかない女が、“彼女面”した瞬間から、“自分と、対等”とでも勘違いした瞬間から、その人はニクスさんにとって、お気に入りでもなんでもなくなって、いらないモノ、になり果てるのだと。
そして
この人は、女に飽きると、俺に戻ってきてくれる。
可愛がってくれる。
大事にしてくれる。
それが何よりも嬉しかった。
過去にいくつニクスさんと寄り添っていた、小綺麗に着飾った女の人達より、自分は、この人に気に入ってもらえているのだ、と。
愛してもらえている。…ペットとして、玩具として。
それだけで十分、幸せだった。
「っん、あ」
口に含み、指を唾液で濡らせて。
人差し指と中指を一緒にねじ込むように俺のなかに突っ込んでくる。
ゆっくりと、そこを広げつつ、輪郭をなぞるよう口づけを落とし、首筋を噛みつくように吸われれば、触られていなくても性器からは先走りが零れ落ちた。
「…どこが、いいんだ?」
ゆっくり、ゆっくり。
指が根元までおさめ、ナカを探るように動かし始める。
知っているくせに、一番感じるところを言わせたがるこの人の意地悪も、嬉しかった。
「あ、あ、んっ、もう、ちょっと、お、奥っ、そこじゃ、あっ」
それで、よかった。
俺は、この人にとっての、玩具とかペットとかで――…
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「髪、伸びたな。」
「…切ろうかなぁ」
「伸ばせば?女みてぇに」
「絶対切ります。今日中に。」
紅をひこうか悩むのは
君をしらない
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090308
(crow69の展示物でした。)