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我が儘に振る舞う夢の在処も。



『英利!英利!!ひでとし!』

『暇だ!遊んで!!』


世話しなく動き回る丸が二つ。
厳密に言えばネズミのような形をした、ぬいぐるみのような生命体が二匹。
重量を無視した動きで飛び回り、足元から俺が肘をついている机の上まで。自在に、まるでスーパーボールが跳ねているみたいに飛び回り、世話しなく動き回る二匹と、俺。


作業所と、大きな窓を隔てた事務室にいた俺をターゲットにした二匹は、俺の目の前にスケッチブックを差し出しページをめくってみせる。
色とりどりのクレヨンが踊った舞台の上、描かれていたのはまばゆいばかりの思い出たちだった。


『見ろー』

『僕たちが描いたんだぞー』


胸を張って見せる二匹。
思い出の中にはいつも、二匹と一人がいた。
眩しいくらいの、青。
透き通る空のような、深くて広い海のような、青。

ガラスの向こうで、頬についた油を拭う青年が、落書き帳のそれと同じ顔で、笑っている。

(…あのかおが、書きたい。)

「ちょっといいか?」

『いいよー、あ、英利も書くのー?』

『描いて描いてー、かっこよく描いてー』


落書き帳の、最後のページをめくる。
まだたくさんのページが残った落書き帳は、これから先溢れんばかりのまばゆい思い出でいっぱいになるだろうから。

握るのは、先の丸くなった鉛筆一本。
描くのは、眩しい笑顔をむける青と、二匹。

テーブルに散らばったクレヨンの中から、青と、黄色と、橙をえらんで、彩って。

「…できた。」

呟きは、すぐに掻き消される。


『まだできてないよー』

『そうだよー、英利がいないよー』


二匹は拗ねたような口調で言うと、俺の肩や頭に飛び乗りぱたぱたと暴れ始める。
文字通りぱたぱたと。
急かすように、促すために。

「ああ、わかったよ!ちょっとま…つーか、やめろ!描けないだろって!」

なんとか大人しくなってくれた二匹は、見つめる。
空白が埋まる瞬間を心待ちにするように。
あとひとりが描かれるのを。


(自画像なんて、何年振りだか…)

塗り潰す、ではなく。
彩る。少し明るい橙で。


『わー!!』

『英利うまーい!』

完成と同時に歓声があがり、事務所のドアが開かれる。
まばゆい青が、頬についた油をタオルで拭いながら、やって来た。

「へぇ、英利。絵うまいじゃないか。」

「…ん。もう上がりか?」

「うん。待たせてごめんな?」

『ねえヒュー!見てみて!』

『英利がかいたんだよー』

飛び回る二匹と、それを見守る二人。



色とりどりのクレヨンで描かれた思い出は、いつだって光り輝いていて。
二匹の描く光のなかに、もうひとりが描かれるようになったのは、この日が始まりだった。

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091209 Stone

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