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チープな夜とオマエと、


助手席に乗り込んみつつニクスが言った言葉。それを聞き漏らした俺は、アクセルを踏みながらニクスに「今何と言った」と、問い掛ける。
いつもなら同じことを何度も言わせるな、とか、耳が遠くなったんじゃねぇか、とか、暴言のひとつやふたつ頂く所なのだが、それがなかったということは、それなりに機嫌が良かったんだろう。


「だから、もうこんな時期なんだなって。」

「こんな?」

「こんな。」

コンビニの小さな駐車場から広い道路に出た途端、交差点の赤信号にひっかかる。アクセルを離してブレーキを踏みつつ、何かをちらつかせるニクスの方をみた。
日曜日の大通りは、いつも通り車道も歩道も賑わっている。

「…あー、クリスマスのオーナメントか、何、コーラのおまけとか?」

「うん。」

ニクスの長い指にぶら下がるのは、星を模したオーナメント。コンビニで買ってきた飲み物についてきたらしいそれは、安っぽいプラスチックのそれ、だけど。手の中で光を反射するそれをじぃっと見つめるニクスの横顔は、オーナメントのチープさを感じさせない、どこか感慨深い横顔だった。
青信号に変わるのを確認し、アクセルを踏み込む。確かに見つめていたい横顔だが、さすがに大通りのど真ん中で男に見惚れているというのは常識的にどうかと思うワケで。(まあちら見しまくるけどな。どうせ道まっすぐだし。)

ニクスが握るペットボトル。(勿論俺が買ってやったコーラ)飲ませろ、催促するよう右手を差し出すと、その辺はやはり嫌がらせの代名詞。(他の代名詞は、ニクスと書いて嫌がらせ、ニクスと書いて罰ゲーム。)きっちり蓋をしめた状態で渡された。

「お前んちツリーあったっけ?」

ウインカーをつけて車線変更。
さて、どうやってこのきっちり蓋をしめられたコーラを飲んでやるか、と眉を潜めていると、ニクスがいかにも面白そうな声色で問い掛けてくる。…ニャロ、絶対自力で開けてやる。

「…ねーな、」

「買えよ。」

「はあ?」

「コレ、つけるから。」

交差点を左に。
横断歩道を渡るチャリンコ中学生に、並列運転はやめとけ、最近チャリンコの規制も厳しいからな、なんて心のなかでアドバイスしつつ、ハンドルをきる。

「…何。超でかい奴とか?」

「いーや、ちっこくていい。」

珍しく控えめな注文をしてくるニクスは、以前としてオーナメントを掌の上で弄んでいる。嫌に気に入った様子だ。…珍しいなあオイ。

大通りから一本外れて閑静な住宅街を進む。
高級マンションが立ち並んでいるらしいこの道。見慣れているからか、全く高級マンションって実感が湧かないのが正直な話だ。

「…クリスマスなあ。ROOTSのクリスマスパーティー、行くだろ?」

スピードを落とし、内股にボトルを挟んだまま蓋を捻る。
しっかりきっちり、むしろ嫌がらせレベルにきつくしめられた封をようやく開けた頃には、もうマンションについていた。
細部の装飾にこだわったアンティーク風の門をくぐり、駐車場に車をとめる。シートベルトを外したところでようやくコーラを飲めた俺を、隣のニクスは実に楽しそうに笑っていた。(無邪気に?いや、コイツは邪気そのものだ!)

「その後は世音で集まって飲み直すか。」

女子供を含む何時ものメンツでパーティーを楽しんだあと、有志で集まってドンチャン騒ぎをするのは毎年恒例になっていて、地味に楽しみだったりする。祭好きな気のいい連中が集まるわけだ、楽しくないわけがない。

キーをポケットにつっこみ、車から降りる。十一月末の冷たい空気に肩を竦めながら、助手席のニクスがドアを閉めるのを見届けてエレベーターに向かう。
寒さから逃れるように、無意識に足が早まる。…マジで寒い。もう冬なんだなーなんて思いつつ言葉を紡いだ。


「…当日は、どっかいくか?」

上へ向かうボタンを押したものの、一階まで来るには少し時間がかかりそうだった。背筋を這うような寒さに再度身体を震わせた後、振り返る。



俺の手には飲みかけのコーラ。
ニクスの手には星型のオーナメント。
背丈も似たりよったりの俺達は、いつでも同じくらいの目線で、見つめ合う。


「べつにどこでも。お前といられれば、いいし。」

珍しく控えめな注文をしてくるニクスは、依然としてオーナメントを掌の上で弄んでいる。さっきから随分、機嫌がいいようで、うれしく思う半面少し気味が悪かったけど、やめた。
こういう季節は、無条件に心が躍るものだから。
きっとこいつもそうなんだろう、と、嬉しく思って。


「熱でもあんのか?」

「寒いしな。」

外気にさらされたニクスの手をとる。ひんやり冷たいニクスの手は、俺の手が熱いこともあってか余計に冷たく感じられて、部屋に帰ったら暖かいミルクティーでも煎れてやろうと思った。

風邪ひかれたら、大変だしな。


我が儘猫と過ごすクリスマスまで、あと一ヶ月。
ニクスの握る、チープなオーナメントを飾るツリーは、どんなデザインがいいものか。

(…明日あたり買いに行こう。)

飾りはニクスのそれ、ひとつだけでいい。
ひとつだけあれば、ひとりだけ、いてくれれば。
俺はそれで大満足なのだから。


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091125 Honey?

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