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You're fate to be happy with me.

「俺たちってなんでえっちするんでしょう。」

「………賢者タイムか…」


髭もザザムシも出払った我が家はしん、と静まり返っていて、唐突に赤毛の漏らした呟きが不思議な余韻を残す。
終わった後の脱力感やら倦怠感やらで、正直この赤毛が何を言い始めても無視する気だった俺。きっと、寝そべりながら煙草を蒸す俺のとなりにごろごろ転がってきて、ぴったり身体を密着させたまま、真面目な顔をして覗き込んでこなかったら無視を決め込んでいただろう。
…それだけではなく、不定期に向こうに転がっては俺の方に転がりながらぶつかってきやがる。なんて厄介な奴なんだ。

きっとハイパー賢者モードかなにかなんだろう、ほっとけば、問題はない。


「なんですかそれ、だから、なんでえっちするのかな、って。」

「しらねーよ。胸に手を当ててよーく考えてろ。」


短くなった煙草を、携帯灰皿に捩り伏せる。寝室には灰皿を持ってきてはいけないと(耳にタコができるくらいに)言われたのを、ちゃんと守っているあたり、なんて俺はイイコなんだ、と、心の底から思った。(前に布団を焦がした時に髭に言われた。灰皿を持ってきてはいけないだけで寝煙草を規制されたわけじゃない、たぶん。)
そんな俺の隣で馬鹿正直に胸に手を当てること、約十秒。

「……。」

「…いや、違うくて違うくて。俺はニクスさんの意識を聞きてーの。」

馬鹿正直な赤毛の、思春期真っ只中高校生鉄火は、再びずい、と顔を覗き込んできて、そう言った。

赤い髪のガキ。寿司屋の跡取り。ゲーセンでの玩具。馬鹿正直な高校生。
どうでもいい、遊び相手。…こいつに対する認識は、その程度のものだ。


しにたいです。
勝手に死ね。

以前交わしたやり取り。殺伐とした数分間のコミュニケーションを経て、鉄火は俺という存在を縋る杖か、ぶら下がり棒か何かと認識したらしい。
あの日以来鉄火は、金魚の糞よろしく俺に纏わり付くようになった。

はっきり言ってウザいしキモいし面倒臭いしの三拍子がそろっているコイツだが、不思議と俺はコイツを邪険にできなかった。何故かは、分かっている。なんとなく、ぼんやりと、だけど。

寝そべったまま頬杖をついて、両手で頬を包む。そんな少女マンガの表紙みたいなポーズで(読んだことねーけど)、鉄火は少しだけ楽しそうに頬を緩ませながら問い掛けてくる。

「女の子とするなら、本能だからってわかるじゃねーですか。でも俺達男同士でしょ?」

「だったら尚更分かりやすくてシンプルだろ。ヤリたいからヤる。はい決定。」

なるべく会話を長引かせないようにするのはいつものこと。
いつだって俺はどうでもよさそうに話しているはずなのに、こいつはそんな会話ですら面白いですだの楽しいだのと、声をあげて喜ぶのだ。
正直俺は、そんな顔、見たくない。


「性処理のためなら、ニクスさん、俺みたいな下手くそよりもっと上手い人とすりゃいいのに。なのにあんたは俺に、抱かれてるわけですよね。」

「俺は優しいからな。」

「なんでただの性処理相手に優しくするんですか。」

「俺は博愛主義なんだよ。」

鉄火は笑う。
壊れた笑顔を貼付けて、笑う。

我ながら矛盾していると思う。
こいつの『こういう顔』が見たくないなら傍におかなければいいのだ。徹底的に拒絶して、相手にしなければいい。なのに、俺は。

「博愛主義に誰にでも股開くんですかぁ?とんだクソビッチですねぇ、あはは!」

ははははは、笑いながら向こうに転がって、戻ってくる。離れていっては、寄ってくる。
思春期故の暴走か、はたまたタミフルでも服用したのか。そんな鉄火を放置して、俺は煙草に手をのばした。
いつもの煙草が無かったから買ってみた、新しく出たそれ。フィルターの部分にメンソールの粒が入っていて、それを潰してから吸う仕様なのだとか。とんとん、と、詰めてから、口に。前歯で粒を噛み潰すと、小気味よい音がした。


「え、何、何の音でい?」

転がって遊ぶのに飽たのか、音に反応したのか。うるさいガキは再び体をよせて、こっちを覗き込んでくる。興味の矛先は見慣れない煙草。ここに粒が入ってるんだと説明すると、鉄火は嬉々としてまだ口を付けていない煙草のメンソールを一本二本と潰し始めた。…何を言っても無駄だろうから、やっぱり放置。


「…おれは。」


「にくすさんだから、だきたいって、おもうんだけどなあ。」


手の中で人の煙草を弄びながら鉄火が呟いた。


しらねーよ。
包み隠さず心の声を言葉にしてやったら、隣の赤毛はひどい!と間髪入れずに声を上げてから、煙草をくわえて見せた。
いつものように、笑いながら。

「何これ、超スースーする!何ていう煙草でい?」

「…KOOL。」

タールもニコチンもいつものそれよりずっと少なくて、物足りない煙草だったけれど。
楽しそうに、メンソールを潰している横顔を見られるなら悪くないかもしれない、と、思った。


冷たいくらいにメンソールの利いたそれを選んだ理由なんて、忘れることにして。






















*****


「駅前に精神科あるから、明日にでも行っとけ。予約いれねーと駄目だから注意しろよ。初診はエラく待たされるしぼったくりレベルに金取られるけど、デュエルあたりにでもタカっとけ。喜んで貢いでくれるだろうよ。」

「え?感想それだけ!?ひどい!」

前回同様。頭の足りない作文を読み終えた俺は、ルーズリーフを撒き散らす。
前と違うのは、鉄火が散らばったルーズリーフに眼もくれず、ひたすら俺の煙草のメンソールをぷちぷち潰しまくっていることだ。

ソファーに深く座る俺と、テーブルに突っ伏す鉄火。
日曜日の昼下がり。髭もザザムシも出払った静かな室内に響くのは、ぷちぷちという小気味よい音。

「…構ってほしいのか嫌ってほしいのかわかんねーな…」

「愛してほしいです。」

「きめぇ。」

「あう!」

テンポはいいが、噛み合っていない会話。鉄火の書いた文章の俺はエラく淡泊で冷徹で、コイツのなかの俺という人間像を疑いたくなるわけだが、そこを突っ込んでは会話の内容がこのキチガイ作文に行ってしまうので、放置。
基本的に放置主義だということは、文章の通り紛うことなき真実なのだけれど。


今回の鉄火作文を要約すると、再び視点は俺。やっぱりフィクションな、頭の悪い文章だった。
しかもなんか俺が色黒バンダナのこと好きなことになってるし、俺があいつにキチガイ染みた愛情抱いてることになってるし。そろそろ名誉毀損だろうと、思う。

ただ一つ、前のそれと違うのは。

(…まどろっこしい文章問題だな。)

そこに、こめられた感情。
逃がさないですよ、どこにもいかないで、が、前の作文だとすれば、今回は。

…作文の中の俺とは違って、この俺様はあんな風に淡泊でも冷徹でもない。ただ、それを言葉にしたくないだけ。したくない、のだ。言葉なんかじゃ、伝えきれない。あらわせない、から。
でも。
その気持ちの、ほんの少しでもそれが伝わるなら。それを鉄火が求めるなら。

「鉄火。」

テーブルに突っ伏していた鉄火が、拗ねたように視線を伏せながら身体を起こす。手のなかには、俺の煙草。
コイツめ、俺がその煙草を吸いはじめた理由を知ってやがるくせに。


「…俺は、お前にしか興味がない。」

きょとん、と。目を丸くする赤毛。驚いているのが、見て取れて。次第に頬が緩んでいく。白い歯が見える。口角があがる、目が細まる、顔をくしゃくしゃにして…わらう。



「…お前が思うより、お前のこと。好きだから。」

顔のパーツが真ん中に集まってくしゃくしゃになっていて、不細工な笑い顔をしていた、赤毛は。
その大きな瞳から大粒の涙を流して、泣いた。


*****
091103 BG
+ Baby Girlとかのつづき。



きすおんりーわんれでぃを吸う悪いあなたと、しょうじょまんがを愛する幼稚なわたし。

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