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Stop! Fallin' love with me agin.

「あの褐色が真っ黒な内出血で染まるまで殴りつけたら、はたまた真っ白になるまで血液を抜いてやったら。
その目に俺以外写さないように両目を潰して、逃げ出せないように両足を落として。
腕もいらねぇかな、俺以外を求めるのは無意味だと教えてやんないと。
ああ、中身ってどうなってるんでしょうね?腹ンなかぱっくり裂いて、血の色を見てみたい。それから、」



すぐ近くで聞こえるこの声は気味が悪いくらいに落ち着き払っていて、淡々と言葉を紡いでいく。
決して耳障りのよい言葉ではないはずなのに、なぜか落ち着く。堕ちつく、声だった。

「ああ、もう楽しくなってきちまいますね、頭のなかで切り刻むの。肉片に分解して、誰なんだか分からなくなっても、それでも俺はあいつを愛せますよ、へへ、愛は無限ですねぇ。」


気恥ずかしそうな口ぶりで言うけれど、きっとコイツはにこりともしていないだろう。
顔を見なくてもわかる。
絶対にこいつは無表情で、冷めた目で、あいつを見ている。
同じように俺も、見ている。
冷めきった目で、狂おしい程に愛しい、あいつを。


「指の一本も。髪の一本だって、誰にも渡さねぇ。慧靂は俺のもんだ。…でしょ。ね?」

「……。」

不意にこちらに顔を向けて、返事を求められたので、しらばっくれることにした。音ゲーコーナーの奥に配置されたベンチには、俺と隣に赤い髪のキチガイ野郎。こいつは俺に話かけているだろうことは明かだけど、こんなに危ない奴、関わりたくないのが本音だ。

「ねぇってば。ニークスさんっ」

名前を呼ばれた。
うわ、キメェ。
包み隠さず心の声を言葉にしてやったら、隣の赤毛はひどい!と間髪入れずに声を上げた。
思ってもない台詞を言うときの、それだった。

ベンチには俺と赤毛。
見つめる先には丁髷弟と−…バンダナ野郎。
一応赤毛と丁髷弟は親友だと、聞いたことがある。


「まったく、妬けちまいますよねェ。俺ってばこんなに慧靂のこと好きなのに、あいつときたら他の人とべたべたと…そう思いませんか。」

「………別にいーンじゃね?減るもんじゃあるまいし。」


長めにとった沈黙は俺なりの主張だったわけだが、相変わらずこの赤毛、空気を読まないことに関しては皆伝レベルである。(寺はせいぜい五段くらいだろう、しらねーけど。)会話が成立したと勘違いした赤毛が年相応の笑顔を見せて、続ける。
先程のキチガイ染みた台詞を聞いていた俺に言わせれば、気持ちの悪い作り笑いを浮かべて、気持ちの悪いキチガイ台詞を続ける。…マジで、キメェ。

「減りますよ、傷だらけですよ!俺の神経が!ガラスの…いや、小鳥のようにか弱いハートが!」

「…百人乗っても大丈夫なお前のごん太神経が?世界崩壊の危機だなおい、明日には核兵器が世界中に投下されることだろうよ。」

「ひどい!」

そんな俺の嫌悪感に気付いているのかいないのか。
心底気持ち悪い笑顔を貼付けた赤毛は、けたけたと笑った。


「あー面白い。やっぱりニクスさんと話をするのは楽しいです。」

「?…時空の狭間から猿の鳴き声が聞こえるな…」

「も、まったあんたは!」


呆れたような声が聞こえたところで、俺は再度隣に視線を向けてやる。
隣に座る赤毛は、やっぱり気味の悪い作り笑いを浮かべて、ただ、視線を伏せていた。向こうの二人に視線を向けることなく、ただ、俯いていた。


「ニクスさんが、慧靂だったらよかったのに。」


「あんたなら分かるでしょ?俺の気持ち。」

「だっておんなじ目をしてますもん。あんたがデュエルさんを見てる目が、そう言ってます。あの人を自分だけのものにしたいって、誰の目にも触れない檻に閉じ込めて、逃げられないように張り付けにして、縛り付けて。肌を裂いて内臓引きずり出して細切れに刻んで肉片にしてぐちゃぐちゃにしてそれからそれからそれから、」


成長期の身体を、小さく縮めるように、赤毛は身体を丸くする。ベンチに深く座り直して、膝を抱えて。いつも姿勢正しい背中を丸め、顔を伏せて。くぐもった声が抱えた膝の隙間から漏れた。
弱々しいその姿に、声をかけるべきだろうと思った。でもそうしなかった。結局それは、無駄なのだと俺は知っていたから。


「こんなに!大好きなのにな!はは!聞いてくだせぇよニクスさん。慧靂ね、慧靂ね、昨日、彩葉ちゃんとお付き合い始めたんだってさぁ!あはは、もう笑いがとまんねー!!」

ああ、壊れた。
音をたてて、(けたけたと。)

抱えた膝が揺れる。
丸めた身体がもっと小さくなって、それから。


「鉄火。」

口をひらく。
こんなキチガイ相手に用意している言葉はない。
だからただ、名前を呼ぶだけ。

それ以上は何もしてやれない。やるつもりもない。正直俺は、こんな頭の悪いガキと関わりたくないのだ。こんな気持ち悪くて気色の悪い、頭のオカシイガキなんて、視界に入れているのも不快で、…ただ、ただ憐れで。


「ね!ニクスさんとお揃いですよ、あんたが好きなデュエルさんは、茶倉さんとデきちまってて!っはは、あははは、は、…っは、」

頭のオカシイガキは笑う。
壊れた機械のように、笑う。
それしか知らない、それしか許されない、そんな、檻に囲われた思考回路。悲鳴をあげることも赦されずに、ただ、ただ。


(壊したのも赦さないのも囲ったのも全部、コイツ自身だというのに。なんでこんなにも。)


「……」

「ニクスさぁん。」


向こうに見える二つの影は、いつの間に四つに増えて。漆黒と橙の長髪が揺れている。
光の滑る毛髪は艶があって、上がる笑い声は幸福に満ちていて。どうやったってあそこにはいけないのだと、ぼんやり思う。その光景から目を背けた赤毛は、また俺の名前を口にした。
やっぱり俺は答えなかった。
沈黙を続ける俺に、こいつは何を求めていたんだろう。


「…………
おれ、しにたいです。」


勝手に死ねよ。
包み隠さず心の声を言葉にしてやったら、隣の赤毛はひどい!と間髪入れずに声を上げて、ようやくこっちを見た。
顔のパーツが真ん中に集まってくしゃくしゃになっていて、不細工な笑い顔をしていた、赤毛は。
その大きな瞳から大粒の涙を流して、泣いていた。



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091026 BG

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