影、ひとつ。
都内を一望できる高層マンションのベランダから見上げる月は、普段見る切り取られたような夜空に浮かぶそれではなく。
過ごしやすくなってきた秋の夜風を受け、俺は、ぼうっと空を見上げた。
そこにあるのは、雲と、月と。あとは。
「綺麗だな。」
「何、俺?」
「ばっか、月だよ。」
同じように月を見上げる、デュエルと二人。
自室でしか見ることの少ない、髪を下ろしたコイツと、帽子をとった俺。
どこもかしこも街灯やらで明るく照らし出されて、眠りにつこうとしない地上とは違い、そこは限り無く静かで。
「停電とか、なんねーのかな。明るくて星がよく見えねぇ。」
「確かにな。…星、見てェわけ?」
「いや、なんとなく。」
唐突に独り言染みた台詞を吐きたくなるのはいつものこと。
明日は雨がいいとか、死ぬなら世界中の人類が俺以外全員死んだ後がいいとか。
そんな馬鹿気た話をひとつふたつ、交わして。
ぴゅう、と、二人の間を風が割り込んできたのを合図に、俺達は口づけを交わした。
「冷えてきたな。」
「暖めろよ。」
「面倒くせぇ。」
ぶっきらぼうに返しながらも、腰を抱き寄せる腕はそのままで。
「何?ここでやる?」
「嫌か?」
「いや、別に。」
そんな、馬鹿気た話をひとつふたつ。
求め合うように、どちらともなく手をのばして、抱きしめあって。
乾いた唇を重ね合わせて、それから、それから。
薄明るい月明かりの下。
ふたつの影は、ひとつになった。
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091023 crow69より。雰囲気駄文。