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cycle.

ふいに、アイツの手が俺の目の前を掠める。
何事かと思い、視線を地に伏せると、今の今までくわえていた煙草がコンクリートの地面に落ちて、遠慮のない足に踏みにじられた。


「…何」

「何じゃねぇ。」


いつものゲーセンに、いつもの面子が集まって、いつものように一人二人と家路につく。そんないつもと同じ日常。
今日もいつもと同じように、いつものようにゲーセンに行って、デラやって。デュエルの野郎と駅に向かっている途中、当たり前のように煙草を吸おうとした。いつもと同じように。


そんな“当たり前”のサイクルを繰り返そうとしているなか、なぜ今自分は煙草を取り上げられなければならなかったのか、と、俺は苛立ちと疑問を覚えた。


「約束したろ。俺が勝ったらお前、1ヶ月禁煙するって。」


「はぁ。そんなこともアリマシタネ。」


「テメ、言ってるそばからまた吸おうとしてんじゃねぇ!」


しらねーよそんなの。妄想と虚言癖持ちのフーリガンめ、と、心の中で盛大に罵倒しつつデュエルの小言を聞き流したものの、ズボンから出した煙草も力任せに奪われた俺は、やり場のなくなってしまった両手をポケットに押し込める。
…あ?そういえばそんな約束をしたっけ俺。
なんて思いながら、不快感剥き出し、敵意の固まり見たいな顔をした奴から目をそらし、足下に落ちていた空き缶を蹴ってみる。
転がった缶が奴の足に当たって、軽くほくそ笑んだところで、ヤニ切れとコイツの奇っ怪な行動に対する苛立ちは無くなっちゃくれなかった。



いかんせんタイミングが悪い。
識のゲーセンに行く前に一本吸ったのが最後、それから一度も吸っていない今の俺。んで、コイツ。ああ、キレそう、俺キレそう。ああ、ムカついてきた。



(うーわー、むかつく。何コイツ、死ねばいいのに。つーか、殴りてぇ。)

…とか、考える。
考えてしまう。


ヤニ切れの不快感はじりじりと俺の清純且つ高尚な心を蝕み、ズボンのポケットに突っ込んだ拳に力がこもる。なんたって俺の沸点の低さは、自他共に認めるAAAだからな、とか、言ってみる。言うだけである。…実際問題、沸点は低いが、あまり喧嘩はしたくないのが本音だからな。
喧嘩っ早いと指摘されることは多いが、俺だって成人済みの大人。無意味に喧嘩などしたくない。
それに俺は元々、無駄に体力を使うことを好まない。
口数が少ないのはそのせいだ。人を馬鹿にするときにだけ、暴言を吐くときだけ声帯を震わせることにより俺は俺自身のエネルギーの無駄遣いを防いでいる。なんてエコロジストなんだ俺。これはいいエコロジスト。

そんな俺のだからこそ、苛立ちや不快感を緩和するために煙草を吸うというのに…
…むしろ、喫煙者であるコイツに、それが分からないはずがない。
分かってやってるのか?このフーリガン。そうだとしたらなんだ、畜生、可愛い奴め。そうかそうか、お前は俺の気を引くためにこうして煙草没収とかやっちゃってるワケか、ああ、馬鹿馬鹿しいにも程があるぜ。


(…そうだ。)


「おい。デュエル。」


「ああ?」


眉間にシワを寄せ、人相の悪さが三割増しな奴の顎に手を添える。
思わず零れた笑いは、隠すことなく。
鏡を見るまでもなく、最高級の笑顔を浮かべながら。


「は?ちょ、なん…」


細めた目で奴のみるみる変わっていくアホ面を見ながら顔を近づけ、唇と唇をそっと重ねた。


「煙草は止める。1ヶ月。だからテメェの口吸わせろよ。」


にやり。
してやったり、と笑う俺とは対照的に、してやられた、と、完全に毒気抜かれた様子のデュエルは、呆れたようにひとつため息をついて、答えた。


「悪い病気がうつりそうだから、遠慮する。」

「あ。口が駄目なら指でも下半身でも…」

「あーもういい。何も吸うな、煙草吸っていい」


先ほど取り上げた煙草を押しつけるように返すデュエルの顔が、面白くて。

勝った、と笑う俺と、やれやれ、とうなだれるデュエル。

当たり前の日常。
当たり前の俺たち。




こうして、俺の禁煙は、僅か30分足らずで終わりを迎えたのだった。





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0823 (crow69の展示物の修正版。)
   

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