答えなんて、どこにもなかった。
責任をとれ、と。この男に言ってやりたい。
「っ、てェよ、ヘタクソ、ッは、」
あああもう分かってるんだよ、貴方が気持ちいい所も全部、その眼がなんで潤んでるかも、ヘタクソ?そんな風になんてちっとも思ってない癖に!
舌打ちをし、切れ長の眼で睨んでくるニクスさん。…俺が思ったことをそのまま口にしたら、どんな顔をするだろうか。
「っう、あ、…ッ」
抵抗なんかしないだろうけど、興奮するからという理由で縛った両手は地味に鬱血していた。…あー、プレステのコードじゃやっぱり駄目か。なんて考えながら、押し込めていた玩具を引き抜く。
たっぷり絡めたローションと、その他諸々が糸を引き、ニクスさんのナカから零れた。
…うわあ、エロい。
そりゃエロいよな、ニクスさんだもん。
キスの仕方すら分からなかった俺も、回数というか場数というか。とりあえずまあ、何度も体を重ねれば、勝手は覚える。
ニクスさんによってニクスさんの好みの抱き方を仕込まれて、ニクスさんによってどこをどうすればニクスさんがどうなるか、を仕込まれた。調教?そうとも言うかもしれない。
あの人のおかげで、いや、あの人のせいで?
どう言い表せばいいか分からないけど、俺はこの人の性処理のいい道具になったわけだ。
「…一回出しときます?」
「…っせェ。」
YESともNOとも答えないのはこの人の十八番。
そういう時は、基本的にYESととるようにしている。うん、人生前向きが1番だ。
完全に勃起した性器を、壊れ物を扱うように包み、丁寧に舐めていく。
先走りと唾液を絡め、粘液が伝っていく様は、何度みても興奮する。
分かりきっては、いたんだ。
俺じゃなくてもいい、誰でもよかった。たまたま、俺が居たから、俺にしただけ。
俺もそれでよかった。
はず、なのに。
たっぷりと粘液を絡ませて、掌で愛撫する。
5本の指を絡ませて、浮き上がった筋を確かめるようになぞると、鈴口からは透明な液体が溢れ落ちた。
「っ、」
「…」
早くしろ、と。
訴えかけてくる視線を無視する。
この人はいつだって俺のことなんかお構い無しなんだ、たまには俺だって、と。
思って。
啄むようにキスをして、よく見えるように舌を出して、舐め上げる。
上目使いでニクスさんを見ると、悩ましげな赤と眼が合った。
勿論、反応を伺うためなんかじゃない。
こうした方がこの人が、気持ちいいからだ。
…なんなんだろう。
確かに興奮はするんだ。
でも、妙に冷めているというか、割り切っているというか。
経験による計算と、計算による行動と。…なんなんだろう。
俺はこの人をヨくするための人形であり、感情なんかない。いらないはずで。
でも俺は人形じゃなくて、…なんなんだろう。なんなんだろう。なんなんだろう。ああ、なんだってんだ。
割り切っていた。
納得はしてないけど、理解はしていた。
諦めたくなんかないけど、諦めていた。
…あァ、そうさ。
本当は割り切ってなんかない。
納得なんか出来ねェ。諦めたくなんかねェ。
ニクスさんに誘われた時、飛び上がるくらいに嬉しくて、初めて体を重ねた日、一日中、何も考えられないくらい幸せだった。
初めての相手がニクスさんで、嬉しかった。
憧れ、焦がれていたその人が、ここにいて。
大好きな人と、繋がれて。
嬉しくないわけがなかった。
だけど。
分かってた。
おれじゃなくてもいいんだ
って。
ああ、もう。
それでもいいと思わせるのはこの人で、それじゃ嫌だと思わせるのもこの人で。
なんなんだ、もう、この人は。
もう、もう、なんなんだろう。なんだってんだ、ああ!
「っま、て、鉄火っ、つ、ってェっつってんだろ、ぉ、っや、」
分かってる、これは本気で止めるように言ってる声だ。
でもそんなの知らない。関係ない。知るもんか。
さっきまで玩具が埋まっていたそこに、指を捩込む。
一度に4本。掌のなかでニクスさんの性器がまたびくん、と痙攣した。
感情任せに、力任せに内膜をえぐり、前立腺を刺激する。
ああ、なんなんだよもう、畜生、可愛いなあ、愛しいなあ、壊してぇなあ、俺の、に、なって欲しいなあ!
シーツを手繰り寄せ、息を殺すように、浅い呼吸を繰り返すニクスさんの赤は、やっぱり涙に滲んでいた。
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「好きな人とキスする時は、まず頬にしてやるんです、んで俺の頬にもしてもらって。ぎゅうってしてから、唇に。触れるだけでいい。」
「どこに行く時も手を繋いでて、はなさねェの。歩く時もそう。話をする時は真正面からちゃんと相手の顔見て。おっきな眼に写る幸せそうな自分が見えるのが、理想。」
「四六時中好きだとか言うのは恥ずかしいから、おやすみとあいしてる、を寝る前に。次の朝が始まる時に、隣にいるのは貴方であってほしいから。」
「……好きな人と、こんな風にお付き合いしたかったのに。アンタって人は。理想を叩き潰した揚句、前よりもっと俺を夢中にさせやがって。」
「責任とってくだせぇよ。責任とって、俺と馬鹿がつくくらいのラブラブな恋人同士になって、そんで、」
「俺に気付いて
俺を、 コロシテ。」
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090522 箱庭
マダイエナイママの続き。