マダイエナイママ。
貴方の赤い瞳は硝子玉のようで。ただただ澄んでいて、濁りのない赤。
「…っ、」
「…痛ェ?」
「いや。」
乱れたシーツに金髪が溶けて。
うっすらと水気に滲んだ赤い瞳と眼が合った。
…何を映しているのかすら朧げな、ルビー。
そこに映る俺の顔は見事なまでに情けなく、泣き出しそうなそれだった。
躯は反応している。
ちょっと乱暴なくらいがこの人の好みであることを知っているから、ちょっと乱暴に、自分の性器を捩込んだ。
少しずつ湿ってきた肌を舐めるように撫で、撫でるように舐める。
敏感な部位を掠める度、きつく結んだ唇からは悩ましげな吐息が零れるが、依然としてあの赤色はなんの感情も映さない。
「っ…ニクスさん」
頬に口づけて。
名前を呼んだとしても。
それが。
当たり前のことだった。
この人にとって、この行為は暇潰しであってそれ以外の何物でもなくて。
こんなに俺が、ぎゅっと抱きしめてもこの人に『俺が抱きしめている』という認識は残らない。
『抱かれる』ことはあっても『俺に抱かれる』ことはない。
思考が、完結してしまっているのか。
感情が、凍結してしまっているのか。
なんにせよ、目の前のその人は、まるで人形のようだと思った。
「…動けよ。」
行為を急かすニクスさんの唇が、にやり、と歪んだ弧を描く。
まるで俺の思考を読んでいるみたいに、馬鹿にしてるみたいに笑って。…ああ。
「……」
もうやめましょうよ。こんなの。
男同士の性行為だなんて、なんて非生産的なんだ。…とか。
頭のなかで悪態をついてみる。
言えるわけもないのに。
不健全で不純なこの行為に縋っているのは、紛れも無く自分の方だというのに。
「…鉄、火…。」
貴方は御人形なんかじゃなかった。
ただ笑って欲しいだけだったのに、正しい言葉はここにあるのに。
いつまで、俺は。
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0508 ----人形