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Black Guitar +



ぼろぼろ零れ落ちる涙、なみだ、ナミダ。

しゃくり上げて、眉を歪ませ。鼻水だかなんだか啜りながら泣くその様は、決して美しくはないはずなのに、やっぱりコイツは綺麗に泣くんだな、と思った。



「悪いとこ、あんなら、ぜ、んぶ。全部直しますから。」

「……。」

「泣き虫なとこも、全部、だから、だからよぅ」


赤い瞳は涙に潤んで、そこに映る俺は酷く歪んでいた。
酷く歪んでいた。こいつと違って、俺は。



色恋沙汰には興味がない。面倒なだけだと思っていたのは確かだった。嫌われ者でいる楽さを知ってしまったからとか、誰かに好かれたいと思えるほどオメデタイ感情を持ち合わせちゃいないから、とか。理由をつけようとすれば簡単につけられる。それくらい、疲れていたのだ。正直。

好きになるのは疲れる。
好きになられるのも疲れる。

そう思っていた。

だけど、あいつはそんな俺のことなんかお構いなしに踏み込んできた。


「……鉄火。」



真っすぐな瞳で。
…俺のよく知っているあの女と同じ真っすぐな言葉で。


「…嫌です、絶対。さよならなんて、したくねぇ」


きっと。だから。だったんだと思う。
少しだけあの女とこいつを重ねて、握られた手を握り返してしまった。
お子様体温の掌は熱いくらいだったのを覚えてる。


(…全部、気の迷いだったことにしてしまおう。)


手を引かれるまま、時間を共有して、笑って、また笑って。
疲れていたはずなのに、俺はまた人を好きになった。
日向の匂いのする、このガキを。

真っすぐな瞳、言葉、からかってやった時の困った顔、屈託ない笑い声。挙げ足りないくらい、全部。
好きで、好きで。どうしようもなく、愛していて。



「うぜぇな。」


「飽きたんだよ、お前に付き合ってやんのも。」

「もう十分だろ?恋愛ごっこは。」

「俺は。」


鉄火が、真っすぐに見ている。
最後くらい、真っすぐに向き合ってやろうじゃねぇか。
真っすぐに向き合って、そして。

「お前のことなんか、好きでもなんでもねーんだよ。」


最後の最後の、大嘘をついてやった。









一人取り残された部屋で、煙草を蒸す。
『今までありがとうございました。』一言だけ残して出て行った鉄火は、もう真っすぐに俺を見ていなかった。

これでよかったのかは考えないことにした。
これでよくないわけがないと考えることにしたくて。

同性愛への風当たりは依然として厳しい。生まれも育ちも半端者な俺とは違って、鉄火は鉄寿司の大事な跡取り息子さまだ。おかしな道に引き込むのはよろしくない。
だから、よかったんだ。
これで、よかったんだ。


「…味しねぇ。」


一人で賑やかなあいつが居なくなった部屋は、耳が痛くなるほど静かで。
頬を伝う何かが落ちる音だけが、響いた。




*****


+ Baby Girlに続きます。

090309

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