お馴染み設定

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あたしはドジっ子として家族や友達によく知られている。何もないところでやく躓いて転ぶし、コップを持てば必ず中身をこぼす。でもこれはわざとやってるわけじゃない。誰だってこんなことをする人はいないだろう。
一言で言えば、あたしは人より鈍臭いのだ。

今までだって色んな失敗をしてきた。友達やお姉ちゃんにバケツの水を被せてしまったこともある。しかもそれは掃除中の雑巾を絞ったかなり汚い水だ。あたしだったら絶対被りたくない。その時はもう土下座したいくらいだった。
でもそんなことより。

今のあたしは生きてきた中で1番の鈍臭さだと思う。わざとじゃない。本当だ。逃げ出したい気分になったのは今日が初めてだ。


「……」
「……」

あたしは幼なじみであるレンにキスをしてしまったのだ。
レンが勉強を教えてくれると言うから、レンの隣に行こうとして、レンの方へ歩いて行った。そしてあたしは絨毯に足を引っ掛けた。そして転んでレンに覆いかぶさって-----簡単に言えばこうだった。

「あ、あ、あたし、」
「…リン」
「ぴゃああぁぁあ」
「……」
「あう、ごめんなさい、あの、わざとじゃなくて」

消えてしまいたい。逃げ出したい。
レンのことは昔から好きだったけど。あたしたちは付き合ってるわけじゃない。幼なじみとして仲がいいだけ。あたしが一方的に好きな片思い。
ああもうなんて馬鹿!ただの平らの絨毯で、足を引っ掛ける出っ張りなんてなかった。自分の鈍臭さに呆れる。

「絨毯に足が引っ掛かって」
「うん、見てたから分かる」
「だから、あの、えと」
「足大丈夫か?捻ってない?」
「あ、うん。平気だよ」
「良かった」

こんな時でも足を心配してくれるレンの優しさに胸がきゅんと締め付けられる。あたしやっぱりレンが好き。

「あたし、今」
「キスしたね」
「うっ・・・鈍臭さくてごめんなさい!!忘れて!!」
「別にいいけど」
「忘れて!!」

泣きそうになりながら必死に懇願するとレンはにやりと笑って言った。あれ、レンってこんな顔もするんだ。

「いいよ、リンが嫌だったら忘れてあげる。俺とキス、嫌だった?」
「えっ」

顔から火が出そう。それに頭がぐるぐるして、思考が停止したかのようだ。
レンとのキスが嫌か、もちろん嫌ではない。あたしは昔からレンが好きだったし、きっと家に帰ったら今日のことを思い出して悶えるんだと思う。あたしは、ただ、恥ずかしいだけで。

「…や、じゃない、けど」
「じゃあ忘れてやんないよ」
「でも、レンは嫌、でしょ。だから…」
「俺がいつ嫌だって言ったの」
「言ってないけど。でも、」
「じゃあ、これでおあいこにしよ」

レンの顔がゆっくり近づいて、唇があたしの唇に当たった。多分それは2秒とかたった数秒だった。レンの顔がゆっくりと離れていく。レンの目とあたしの目が交差する。レンの目に映るあたしの顔は真っ赤だった。
どうしてレンがあたしにキス?頭がパンクしそう。

「え?今…」
「これでおあいこにしよっか」
「お、おあいこ?」
「でも俺はリンみたく謝んないけどね」

きっと思考がついていかないってこういうこと。

固まって何も言えないあたしにレンは2度目のキスをした。













20110307



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