窓側の一番後ろの席。
私の席は一番皆が座りたい場所である。
そこに座れば陽が暖かくて、いつの間にか夢の世界へと誘われる。
私がいつものようにぼーっとしてると「席がえをする」という先生の声が耳に入ってきた。

ああなんて最悪なんだろう。
あそこの席は寝てても、少しくらい携帯をいじっても、落書きしてても先生にばれない最高の席だったのに!

順々にくじを引いていく。
髪には「8」と書かれていて、黒板に書いてあるのを見ると真ん中の列の一番前の席だった。
誰もが座りたくない最悪の席だ。
先生が黒板を消せば粉が飛んでくるし、先生にもよく指名されるし、勉強してないと怒られる。
あの席以外だったらまだマシだったのに!




「リン、どこの席?」
「一番前の真ん中…」
「嘘!私多分その後ろだよ!」
「ほんと?よかったー」

くじを引いて、まだ移動していない自分の席に戻ると友達のネルが話しかけてきた。
後ろだという彼女が唯一の喜びだ。
これで周りが全部男子だった死んでいたと思う。

「隣は誰だった?」
「まだ見てない」

隣は友達…いやせめて女子だと嬉しい。
しかし名前が書いてある黒板を確認すると、どうやら隣は男子のようだった。

「リン!!隣、鏡音くんじゃん!」

興奮したネルがあたしの肩をばしばしと叩きながら言った。痛みに堪えつつ、誰だったかなと考える。

鏡音くん、鏡音レンくん。
私は話したことないけれどクラスの中心にいるとても明るく、運動も勉強もできてかっこいい子だ。だから女子にモテる。
隣の席になったことで女子に恨まれたらどうしようと一瞬不安になったけれど、その不安はすぐに消えた。
だって私はめったに男子とは話さないからだ。
人と話すのが苦手な私は、このクラスの女子でさえまだ上手く話すことが出来なくて緊張してしまう。男子なんてもってのほかだ。




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「あ、隣は鏡音さんか!」
「あ、うん」

席を移動し、教科書を片付けていると彼が話しかけてきた。彼の無邪気な人懐っこい笑顔にびっくりした。私と彼は話したこともないはずなのに。初めて話す人でもあんな笑顔を向けられるのかと。彼が人に好かれる理由が分かった気がした。

「俺らの名前似てるよね。同じクラスになってからずっと思ってた!」
「あ、そうだね、似てるね」

ぎこちなく微笑んで言葉を返した。これでは作り笑い丸出しだ。
どうしよう、緊張してしまう。あまり話したことがない人と話すと上手く言葉が紡げないのだ。

「鏡音なんて珍しいのにな」
「そ、だね」

頷くことしかできない私はなんてつまらない子!心の中で叫んでみる。

「あ、これからお隣さんとしてよろしくな!」
「よろしく」

彼の笑顔はなんて眩しいんだろう!厭味のない笑顔は私の心を奪った。


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「リン、どうしたの、顔」
「えっ」

鏡音くんが席から立つとネルも席を移動してきて驚いたように言った。何かついてたのかと思って鏡を取って確認した。私の顔は朱に染まっていた。
何でもない、と手を軽く振りながら言う私にネルは不思議そうな顔をした。言えるわけがない。私の身体は心より正直だったのだ。




どうしよう。

まさか鏡音くんの笑顔に堕ちただなんて!













20110227
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