「お姉ちゃん、何時に来るんだっけ?」
「10時」
「えー後30分しかないよ!」

新しい子が来るということで、皆そわそわしていた。家族が増えるのは皆嬉しいのだ。

「お姉ちゃんたちは女の子と男の子、どっちだと思う?」
「妹もいいけど・・・弟が欲しいわね」
「俺も弟がいいな。今は男1人だしね」

和やかな雰囲気に私はどうしても参加したい気分になれなくて、ソファーで丸まっていた。きっと皆は私が緊張してると思ってるに違いない。だって初めて出来る後輩だもん。この時期じゃなければ素直に喜べたのに。


しばらくしてピンポーン…とチャイムが鳴り響いた。

「お、お姉ちゃん!!来たよ!!」
「え、ええ」

3人が立ち上がり玄関に駆けていく。立ち上がらなかった私き痺れを切らしたのか、ミク姉が私の手をとって玄関まで連れていった。
これじゃ後輩に無愛想な人だと思われちゃうなと自虐した。しかし今日はにこりとも笑いたくないのだ。

メイコ姉が扉に手をかけ、音を立ててゆっくり開かれた。きっと皆どきどきしてる。





そしてその人が見えた瞬間、あたしは息が出来なくなるほど目を奪われた。は私と同じ金色の髪で、私とあまり身長の変わらない男の子だった。
セーラー服を基調としてるところも私と似てる。
そう、まるで、言うならば、レンとまったく同じ。

「初めまして。鏡音レンです。」

男の子がボーイソプラノの声で微笑みながら挨拶した。声も笑顔もまったく同じ。
あなたはレンなの?でもレンはこちらを見てくれはしない。あのレンではないのだろうか?


「初めまして!中に入って!紹介はそれからにしましょう」

3人とも破顔していて、嬉しそうだった。
メイコ姉が声をかけて、レンをリビングへと迎え入れた。

「私はメイコよ。よろしくね」
「俺はカイトだよ。」
「ミクです!」

紹介すると同時に一人一人握手をしていった。まずメイコ姉、カイト兄、ミク姉。次にあたし。

「えっと、リ、リンです」

緊張しつつもゆっくりとレンに手を伸ばすと、レンは「これからもよろしくな」と言って優しく手を握ってくれた。

「これからも」?
レンは確かにそう言った。これは初めて会った人に言う言葉ではない。
私は鏡ごしに会っていたレンだと確信した。
レンがこんなにも近くにいる。私は嬉しくて仕方なかった。
鏡ごしでずっと触れられなかったレン。初めて触れたレンの手は暖かくて、もっと触っていたいと思った。手を離すのは惜しいけれど仕方ない。


「レンくんの服ってリンちゃんと似てるのね」
ミク姉が私とレンの服を見比べながら言った。

「ああ…俺とリンは鏡だからかな」
「鏡って?」
「これはリンと俺だけの秘密。そうだよな、リン?」
「え?リンちゃんとレンくんってもしかして初めましてじゃないの?」

ミク姉とレンが私の方を向いた。
レンが目の前にいることがただただ嬉しくて。胸がいっぱいだった。
自然と涙が溢れてきた。悲しいんじゃない、嬉しいの。私とレンの「秘密」。レンがそう言ってくれたことが。

「リンちゃん!?どうしたの!?」

皆が笑顔の中、一人泣き出す私はおかしいだろう。でも止めることは出来なかった。
皆をおろおろとさせてしまって申し訳ないと思う。


レンがあたしの手にそっと触れた。レンの方を見ると優しく微笑んでいて。

「リン、おいで」
「レン!」
「ずっと会いたかったよ!」
「うん、俺も」
「ずっと一緒にいてくれる?」
「いるよ。これからはずっと一緒」

胸がいっぱいになって、なりふり構わずレンに抱き着いた。気がつくと3人はいなくなっていて、リビングには私たち2人だった。

「何で言ってくれなかったの。ここに来るって」
「だってそっちの方がびっくりするじゃん?」
「レンのばか・・・」

面白そうに笑うレンだけど、あたしは笑えないよ!

「あたしの話、これからも聞いてくれる?」
「当たり前じゃん」


ああ、わかったかもしれない。
胸が暖かい・・・これが好きって気持ち。

「レン・・・」
「ん?」
「あたしレンが好き!他に好きな人いるのわかってるよ。だけど、好きでいさせて欲しいよ」
「何言ってんの、俺もリンが好きに決まってる」

くしゃっと私の頭を撫でる。
止まった涙は再び溢れてきた。









20110222


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