ただ、貴方が怖い
からから、音をたてて
「シン、お待たせ。」
「遅いぞ。」
「……うん。とてもいい、夢を見ていた気がするんだ。とても懐かしくて、平和でそれでいて虚しい夢。」
まるで、あちらの世界にいたような、そんな感じが。意識だけがあちらに戻る事はありえないけど、それでもそんな感じがしたんだ。近くにいるイスナーンはおかしなものを見る目で俺を見てくる。それほどまでに俺があの人を寝かせたのが驚いたのだろうか。確かに、小さい頃から自分の中に何かがいたような気がしていた。それは紛れもない事実で、実際自分の意識がない状態で知らない場所にいたこともある。けれど、あの人は俺の一部でもあるんだ。共に長年過ごしてきたから、分かる。自分で自分を寝かせられないわけが無い。
「さて、もう君には用もなくなったことだし消えてもらおうか。」
「ハハハハハッ!その呪縛を施された時点で、お前は私のあやつり人形なんだよ!!見ろ!その痣から増殖した黒いルフたちは、我らの下僕だ!」
イスナーンがシンを睨むとシンに入り込んでいた黒いルフが暴れだす。けれど、どうしてだろうか。シンはその黒いルフと似たような空気も持っている。
「さぁ…お前の身体の中にはどれくらいの黒ルフが育ったかなぁ…?」
嘲笑ってイスナーンだけど、シンが黒ルフを吸収した事に驚いている。けど、やっぱりなぁ。なってしまっていたか。シンドバッド。君は決してそんなことにはならないと思っていたのに。君にはそんな事になって欲しくなかった。あぁ、悲しい。もしも、俺が近くにいたのなら。いれたのなら。それは防げたのかもしれないし防げなかったかもしれない。たらればで話してもしょうがないことなのだけれど。
「紅陽…?どうした。」
「いや、少し考え事を。」
「もう、終わったから戻ろうか。」
「うん。」
今はここに戻れたからいいとしようか。
***
「まだ、アリババ君は消えないね。」
王宮に戻ってからアリババ君の様子を見ているけれど一向に治る気配がない。こころなしかアリババ君の周りにある白いフルたちも弱っている。
「アラジン。君はまだアリババくんを救える手を持っているんじゃないか。」
シン達がアリババくんに集中している間に部屋を出る。もしかしたら、シンが気づいたかもしれないけどすぐには来ないだろう。
……ここから、出ていかなければ。今すぐに。煌帝国に戻らなければならない。身体が使えなかったとき見えた映像はあの女の事だった。姿は違うが、言動が一緒だった。早くしないと煌帝国が危ない。
けれど、シンが見ている中ではここから出してもらえないだろう。多分、一生囲って生きていくつもりだったのかもしれない。でも、今は、炎兄様の方が気になるから。ここから抜け出す。アラジンやアリババ君、モルジアナや白龍には悪いけど仕方ない。置き手紙だけでも置いておくか。
そして、俺は深夜シンドリアを出た。