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原作では殺し屋と暗殺者は同じことを意味してますが、この話は別物として考えています。また、流血表現があります。そこをご了承の上どうぞお読みください


―――――



「逃げろ……。お願いだ。逃げてくれ!殺したく、ないんだ。」

俺の前に立つ生徒達はじっと俺を見つめ佇んでいる。烏間も俺の方を警戒しながらもそこに立っている。
俺は右手で銃を暗殺対象の頭部に当て、左手ではナイフを首筋に当てている。

「ごめん、なさい。殺せんせー。俺には貴方だけを殺すことが出来ない。アメリカ政府は貴方を殺した後ここの存在を無かったことにしろと俺に言った。けれど、ここで教えた生徒達を殺したくない。けれど、今ここで俺に殺されてくれれば生徒達を殺さなくて済むんだ。ここは、アメリカの管轄外、だからさ。」

手がガクガクと震える。本当はこの人も殺したくない。だって、初恋だった。昔、この人が暗殺していた時を見たことがある。そこでは、今の姿ではないけれど人間離れした何かを持っていた。それに惚れたし、憧れた。
そんな人だった生物を殺さなければならないなんて。

「そりゃ、さ。何も考えず上の命令を飲んだのは俺だし、生徒達を殺したくないのも俺の我が儘だけどさ。この何も殺したことのない可愛い生徒達を血で汚れた俺の手で殺すなんて可哀想だろう。夢半ばで殺されるなんて悲惨過ぎるだろう。一番貴方を解っていて愛していて殺したがっているのはこの子達なのに。」
「貴方は私を殺した後どうするんですか。死ぬんでしょう。」
「うん。当たり前だろ。だって、俺は生きていたら生徒達を殺さなければいけないんだから。」

嫌だから逃げろと言った。なのに、何でみんな動かないんだ。殺さなくてはいけなくなるのに。一旦、殺せんせーを殺してしまえば、俺は理性を保てなくなる。命令をこなすただの獣に成り下がってしまう。

「お願いだから、逃げてくれよ。もう、理性が持たないから。」

一瞬、コンマ1秒もないくらいの一瞬殺せんせーの触手にナイフが当たった。
……もう、ムリ。

「おいタコ。テメェを殺す日が来るなんてなぁ。あぁ……ゾクゾクする。初恋だったんだよ。そんなお前を俺が殺す。なんて素敵なハッピーエンド!
……おいおい、逃げるなよ。折角の愛しい時間なんだからさぁ。」

持っていたナイフでタコの触手を数本切る。ああ……楽しい。そうだよ。その顔。その恐怖に怯えているのに我慢する顔がいいんだ。

「なぁ、逃げろよ?直ぐに追いかけてずたずたに切り裂いてやるから。ああでも、この建物内でな?ここから外に出たら1分毎に生徒殺してくから。俺から逃げなくても1分毎に生徒殺してこうかなぁ。」
「みょうじ先生?なにいってるの。」

本当の殺し屋を見たことが無いんだったけ?だからかすっげぇ震えてる。

「俺はアメリカ政府からこのタコの殺しを依頼されたから任務を遂行しているだけだ。まさか、先生になんねーと出来ないとは思わなかったがな。
それに、コイツは暗殺者で俺は殺し屋相性が悪ぃなぁ。」

「どういう事ですか?烏間先生。」
「暗殺者と殺し屋は最終的に殺すのは同じだが、暗殺者はターゲットのみ殺すのに対し殺し屋は任務遂行まで邪魔だと思ったものを殺し続ける。さらに、殺し屋は人とやり合うのが仕事。武闘技術じゃああいつに叶うものはいないはずだ。」
「じゃあ、みょうじ先生は私たちのこと邪魔だと判断したってこと?」
「多分な。だから先ほどあれほどまでに逃げろと言ったのか。一旦殺しに入ってしまうとみょうじは理性が飛ぶんだろう。任務しか頭に入らなくなる。」

「なぁ、タコ。なんで俺が殺し屋になったと思う?お前を殺すためだよ。お前が死神だった時本当にぞくぞくした。完璧人間なんてこの世に居たんだってね。今はこんな触手になっちゃったけど愛してたんだよ?本当に。………本当に、なんで、殺さないといけないんだよぉ。やだ、殺したくない。どうすればいいの、殺せんせー。」

もう心の中がぐちゃぐちゃだ。殺したい殺したくない。本能と理性と感情がないまぜになって体が震える。
殺したくない。けれどここで殺さなければ生徒達も殺さなくてはいけなくなる。どうすればいい。ここで殺さなくて三月まで殺さないという手もあるけれどそれまでに多分この生徒達がアメリカ政府に殺される。


ああ……。そうか。
この計画には抜け穴がある。アメリカ政府は俺が確実に生きて殺せんせーを、死神を殺せると思っていたから生徒達も殺すという付属もつけた。
という事は、俺が死神に殺されればいいということ。


「……おい、タコ。早く逃げろよ。それとも何?俺が生徒を殺すとこ見たいの。分かったよそれにお答えしようじゃん。」
「にゅや!?や、止めなさい!」

含み笑いをして持っていたナイフを1番俊敏な女生徒へ投げる。そいつは一直線にしか飛ばないナイフを難なくかわす。良かったと死神にわからない程度に安堵する。遅く、曲がらないように投げたけれど当たったらどうしようかと思った。

「ねぇ。早く逃げろよ。」
「くっ。仕方ありません。」

俺に分からない動きで飛び回る死神。そう、それでいい。俺は別に死神を追いかけようとはしない。ただゆっくりと生徒達の元へと歩いていくだけ。
口元がにやける。俺は確かに殺し屋だ。暗殺者ではない。殺し屋は肉体的に暗殺者を上回る。暗殺者は知能が殺し屋よりも上回る。けれど、暗殺者並の頭脳を持った殺し屋だっていてもいいだろう。
ここまで上手くいくとは思わなかった。あんな心変わりした一瞬の時に浮かんたシナリオだったからどこかで障害がでると踏んでたんだが。

生徒達の前に立ち髪が青い潮田くんに手を伸ばす。だって一番暗殺能力が高いから素早く避けてくれるはずだ。

「え?」

俺の腕に力が無いこと分かったのかな。不思議そうな顔をする。でも死神に伝わらなければそれでいい。

「だ、だめですーー!!」

やっと来た。あとは死神は潮田くんを助けるために俺を引き離すだろう。その時に潮田くんを盾替わりすれば触手はすごい勢いで方向を変える。そこが狙い目だな。

「ごめんな。」
「え?ぇ、えええ!」

潮田くんと場所を変える。やっぱり触手が方向を変えた。俺はそれに巻き込まれる。

痛い。けどこれで終われる。触手が方向を変えると予想していた方向に尖ったガラス片を置いておいた。
死神が、いや殺せんせーが人殺しにならない方法。それは事故死だ。

殺せんせーが生徒を庇おうとした触手に"たまたま"俺が巻き込まれ、俺が飛ばされた先に"たまたま"尖ったガラス片があり、それで死んだ。

そういうシナリオ。
俺が死ねば永遠に分からないシナリオ。
アメリカ政府も騙せる。証人はここにいる人達だけだから。


「俺がもう少し遅く生まれてたらなぁ。」

目を閉じる。すると背中に激痛が走った。目を開け自分の腹を見てみると肌から突き出ているガラス片があった。

「………ははっ。」

任務コンプリート。
これで終わりだ。後は出血多量で死ぬだけだ。

「みょうじ先生!?」
「血が出てるよ!」

生徒達が駆け寄ってくる。それに笑いかけながら殺せんせーをみた。
こちらを呆然と見つめている。

「皆、逃げな。早く。俺が死ぬと自動的にアメリカ政府に通達がいく。すぐにここが爆破される。君たちは死にたくはないだろう?」
「な、んで?ここが爆破って」
「俺は消さなければ行けない存在だってことだよ。ほら、早く。もう目が霞んできてさ君たちの区別も付かないんだ。」

力を抜いて目を伏せると体が浮き上がった。何事かと自分の体を見るとそこには触手があった。

「死なせません。例え事故だとしても死なせたら私は人殺しです。それに、貴方はいい先生だ。咄嗟の判断力や行動力など素晴らしい。」
「は?やめろ。降ろせ。一体誰のためにこんな事になってると思ってるんだ!俺をあんたの、死神の、殺せんせーの為に死なせてくれよ!」

痛い。辛い。心が避けそうだ。
その優しさが嫌い。人殺しなんてこの世に居てはいけないなんて善人ぶらないでいる所が嫌い。生きるために人殺しをしてきた人を許す所が嫌い。嫌い嫌い嫌い。全部大嫌い。



――なんて嘘だよ。
好きだ。好き。どんなに頑張っても死ぬほどの愛には適わないけど好きなんだ。貴方と生きて愛し合えたら良かったのに。

無理な事だから、願うんだ。無理なことだから、望むんだ。
それしか出来ない。させてもらえないから。

「大丈夫ですよ。ある程度の応急手当は終わらせました。貴方は助かります。」
「何やってんの……。もう、どーでもいーや。」

見上げた顔はどこにも昔の面影はないけれど昔の顔に見えた。ぐいっと引っ張ってキスをする。

「好きだよ…。せんせ。」




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