「後、1週間は着けてなきゃだめだな。」
「1週間も?」
「たった1週間だ。」

鴆が宵の包帯を取り替える際に言った言葉に宵は眉を顰めた。ため息をつき、あー、だのうー、等と声を上げる。鴆はその様子に片眉を器用にあげ怒鳴った。

「ああ!もう!うるせぇぇえ!!1週間見えねぇだけだろうが!ぐふっげほっ!」
「ほら、またそうやって叫ぶから血だした。僕今見えないから拭けないんだけど。」
「う、うるせぇ…。」

宵は側に置かれていた鈴を鳴らす。それは、目の見えない宵の為に置かれたものだ。小さい音だが、これを鳴らして誰も来なかったことは無い。

「どうしました?宵様。」
「その声は……今日は首無なんだ。様付けは止めてってあれ程言ったのになんでしてくれないの。」
「貴方が鯉伴様のお子様だからですよ。」
「そう。じゃあ、"俺"とならいい?」
「は?」
「夕月としての"俺"なら普通に接してくれる?」

首無は息をつまらせる。宵の声があまりにも小さかったからだ。宵は意識的に口元に笑みを作り話した。

「首無は変化に弱いからな。まだ、俺が必要なんだろ?いいよ。まだ、いてやるからさ。」
「ちょっ、"夕月"!」
「ほらな。」

首無が言った名に宵は苦笑した。首無は自身が言った言葉の矛盾に気づかない。

「別にいい。いきなり名前が変わって、態度も変わるなんて周りが変化についていけないのも当たり前だ。けど、少しづつでいい"僕"を認めてくれないか。」
「違う!宵を認めてないわけじゃないんだ!ただ少し、今までの君とは違うから。どう接していいか分からないんだ。」

首無の言葉に宵は微笑んだ。そして、膝の上に置いていた手を擦る。

「首無、それだけで嬉しいから。」
「無駄話はそれぐらいにな。横になっとけ、体に障る。」
「はいはい。あ、そうだった。首無。何か拭くものをとってきてくれないか?鴆が血吐いたから。」
「あ、ああ。」

首無は鴆の宵への態度に戸惑う。まるで宵の事を知っていたかのように振る舞う鴆に驚きを隠せないのだ。事実、鴆は宵に本当の事を知らされており、その対応は普通のことなのだが。
首無が開けていた襖を閉じ、タオルを取りにどこかへ行く。

「いいのか。お前はそれで。」
「しょうがない。嘘をついていたのは僕の方で受け入れてくれ、なんてそんな身勝手なこと言えない。
"僕"は、"俺"のままでいい。僕という存在を認めてくれる存在がいればそれでいい。」
「はぁ。なんでもかんでも溜め込むなよ?」
「あぁ、分かってるよ。なーんか、鴆の方がお兄さんみたいだなぁ。」

アハハと笑いながら宵は言う。

「てめぇより短命な分色々と経験してんだよ。」
「………悲しい事、言わないでよ。
俺はさ、全然成長出来ないんだ。一つの事に囚われてしまって、前に進めない。だから、引っ張ってくれる存在が必要なの。だから、僕がひとりで前に進めるまで一緒にいてよ。」

鴆は軽くため息を付くと宵の頭をかき回す。

「今はまだ一緒にいてやる。だがな、お前を引っ張っていくのは俺じゃねぇ。お前がこいつならいいと思える相手にしてもらえ。」
「だから、それが鴆だと……!」
「いや、俺じゃねぇ。俺はお前を引っ張り上げる事は出来る。だが、一緒には歩んでやれねぇんだよ。」

宵はぐっ、と口を噤んだ。そして、縋るように鴆の着物の裾を掴む。何かを言おうとし口を開きかけるがその口からは何も音は出されなかった。

「宵、お前はさこれまで充分すぎるほどの苦悩をした。だから、これからは好きに生きていいんだ。俺みたいな荷物、担がなくていい。」
「鴆は荷物じゃない!俺の、大切な、大切な親友なんだよ。」
「そう思うなら尚更だ。親友の重荷をお前は負わなくていいんだ。」
「………鴆。」

宵は鴆の胸に額を当て心音を聞く。そこはまだ緩やかに淡々と鼓動している。生きている証がそこには存在していた。宵はほっと胸を撫で下ろし、鴆の手を握る。

「僕が、鴆の心臓になれたら良かったのに。」
「はぁ?」
「こんな、優しい妖怪がなんで短命なんだろう。俺は決して鴆みたいになれない。そんな僕が君の心臓になれたなら救われる気がするんだ。」
「お前なんていらねぇよ。ほら、無駄口叩くな。寝ろ。」

宵は鴆の態度に静かに微笑んで今度こそ本当に横になった。


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