初めてのお仕え | ナノ




#1 文句は受け付けない方針



ズパーーン


「文句なら聞かねぇっつってんだろぉぉぉう!!!」


部屋に響き渡る銃声。
独特な怒鳴り声。


「いくらとっつぁんの言うことでもそいつぁ聞き入れるわけにゃいかねぇな。」

「聞かなきゃこの組織の存続すら危ういぞぉぉ。つぅぅか、俺の命も危ういぞぉぉ。逆らったらとんでもねぇことになるぞぉぉ。」

「だからって、その女が真選組に入ったとして、死ぬなんてことがあったら、俺たちの命も危ういんだろ?」


とっつぁんが話があると屯所に来た。
その時点で嫌な予感はしてた。

だか、とっつぁんの話は、その嫌な予感を遥かに上回った。


「だぁかぁらぁ、御守り兼婿探しに付き合えっつってんだろぉが。その代わり、組織の運営資金を援助してくれるっつぅんだから、美味しい話だろぉお? 」

「でもとっつぁん、その子のこと娘みたいな存在だとか言ってたけど、どういう関係なんだよ?俺そんな話聞いたことないけど。」


とっつぁんの話はこうだ。

とっつぁんが寺子屋時代、唯一喧嘩に勝てず、いつもボコボコされていた先輩がいた。
ガキの頃こそ、張り合っちゃ喧嘩して負けてた相手らしい。
だが、大人になるにつれ関わりもなくなり、会うこともなかった。

それがある時、ひょっこり顔を出した。
小さな娘を連れて。
相変わらず腕っぷしは最強。性格もガキの頃と変わらず豪快で自分勝手だった。
そして、「俺はこれから金を稼ぐ。その金で、警察組織を作ろう。」と、そう言ったらしい。

後に出来たのが、大江戸警察。


そして、


「地球防衛省だ。」

「…何それ?宇宙戦艦ヤ●ト?」

「てめぇ仮にも警察組織の一部のくせに知らねぇのかゴリラ。」

「ち、地球防衛省だと…?近藤さん…防衛省つったら、この日本どころか…地球上全ての警察組織のトップみてぇなもんだぞ。」


地球の中で起こる喧嘩を止めるのが俺達警察だとすりゃ、地球の周りの宇宙で喧嘩を止めるのが地球防衛省だ。
今でこそ天人の出入りが当たり前になったが、数多の星の中には、もちろん物騒な奴等もいる。
それが地球に進入する前に止める。
日本のみならず、地球規模の組織だ。


「でぇ、俺の先輩ってのが、その組織のトップだ。防衛省設立前は、ほとんど家に帰らず土地転がして金を稼いだ。攘夷戦争が終わり、組織が出来上がってからは、あの人ぁほとんど宇宙で過ごしてる。その間世話してたのが俺ってぇぇわけよ。まぁ大人になってからは顔合わせることも少なくなっちまったが。だが俺ァ本当の娘のように思ってんだぁよ。だぁから他所で婿探しされるよりぁ、俺の手元でヤッてくれた方が、俺も先輩も安心っつーわけよぉ。」


こりゃホントに逆らったら命に関わるな…。つーかこの調子だと手ェ出した時点で殺されんだろ。ぜってェ婿無事じゃ済まねぇだろ。
めんどくせェ。


「百歩譲って御守りと婿探しを手伝うのはいい。だが入隊となれば話は別だ。そんな超エリートの娘が、真剣振るって戦える訳がねぇだろ。」

「その辺は心配すんな。セレブってのぁ、何かと命を狙われることもあんだろぉ?七星ちゃんも、例に漏れず、何度も命を狙われてんだ。身を守るため、大抵の武術は心得てるからよぉ。強さで言やぁ、あのセレブ剣法でお馴染みの柳生家当主に引けを取らねぇ。つまり、御守りよりもメインは、婿探しっつーわけだ。」


柳生家当主と聞いてつい眉が寄る。
女だと分かって手が鈍ったとは言え、あの強さは伊達じゃない。それに並ぶとなりゃ、確かに実力は申し分無い。


「いいじゃねェですか土方さん。女の一人や二人。強いなら尚更。」

「総悟…お前見廻り行ってるハズだよなぁ?その女の代わりにお前クビにするぞ。」

「なんでィ、入れる気満々か。死ねムッツリ。」

「ぶっ殺すぞ。どうすんだ近藤さん。俺ァ女の入隊なんか認める気はねぇぞ、士気が下がる。」

「入れよう!!」

「え、」

「いいじゃねぇか女の子!いやさぁ、見廻り組の副長って女の子じゃん?なんか見映えよくて羨ましいなぁと思ってたんだよねぇ。」

「悪かったなぁあああ男でぇええ!!」

「残念ですねィ土方さん、新入りに早速副長の座奪われるなんて。」

「譲らねぇよぉぉおおお!?!?」

「まぁいいじゃんトシ!最近隊士の人数も増えて資金繰り厳しかったろ?そこが保証される上に見映えも良くなるなら万々歳じゃねぇか!!」

「アンタどんだけ見映えに拘るんだよ!!見映えゴリラのくせに!!!」

「酷いトシぃぃいいいい!!」

「まぁお前らがなんと言おうが入隊は決定事項だからな。呼んであるからそろそろ来ると思うんだがねぇぇい。」


とっつぁんからの提案を、こちらの都合で覆せたことなど一度もない。

とっつぁんが逆らえない人間は将軍と上さんだけだと思っていたが、どうやらそれは誤算だったようだ。
とっつぁんが逆らえない人間に、俺達が逆らえる訳もねぇ。
無駄な抵抗。そう言うことだ。


「あ、来た。」


何故か部屋から空を見上げたとっつぁん。

釣られるように空を見れば、けたたましい音を立てながら、屯所の真上を飛ぶ一台のヘリ。


まさか、と思ったのも束の間、上から降ってきたハシゴを伝って降りてくる人影。


ある程度の高さまで降りると、その影はハシゴから離れ一気に降下してきた。


「よぉぉぉううう!七星ちゃぅぁぁん!!久しぶりだなぁぁ!!!」


土煙から姿を現した、眩しいくらいの金色。


「お久しぶりです、おじ様。」

「おじ様はやめろっつってんだろぉぉ?昔みたいに"かーたん"って呼びなさぁぁい?」

「……真選組の皆様、初めまして。私、金城(きんじょう)七星と申します。この度は、どうぞよろしくお願い致します。」


あーあもう見るからにめんどくせェよ…。

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