男子会×ノロケ×片想い
新八は親衛隊の活動、神楽は近所のガキと缶蹴りをしに定春連れて出掛けて、暇を持て余した挙げ句、糖分が欲しくなって昼時のファミレスへ入った。
注文したチョコレートパフェが来て、口に運ぼうとした途端、入り口から聞き覚えのある声がして、嫌な予感を感じつつ振り返ると既に真後ろまで接近されていた。
「旦那、奇遇ですねィ。満席らしいんで相席お願いしまさァ。」
振り返った先にいたのは沖田くんと山崎。
俺の至福の糖分タイム邪魔しやがって。
こっちの文句を聞き入れることもなく、店員を呼んで注文をし始める。
「旦那、最近どうですかィ調教の方は。」
「んぁ?…まぁ…別に、普通だけど。」
「へぇ、てっきりそろそろ飽きてくる頃だと思ってたんですがねィ。」
「そろそろってお前、まだそんな経ってねェだろ。」
「時々アイツがクマ作ってチャリ漕いでんの見かけまさァ。そんなに相性いいんですかィ?」
「ぶっちゃけ、…相当いい。」
「ちょ、ちょっと、二人とも何の話してるんですか?アイツって誰のことですか!?」
パフェを眺めたまま口へ運びながら、柄にもなくノロケてみた。
これがノロケなのかどうかは置いといて、正直、身体の相性ってもんがどれだけ重要か、アイツを抱いて、分かった。
「アイツが手籠めにされてるもんだと思ってたが…翻弄されてんのは旦那の方でしたかィ。」
「俺ドS自称して良いのかな…なんか自信無くなってきたんだけど。アイツ全然大人しくしてねェし。エロいし。沖田くんどう思う?」
「ちょっとぉぉおおお!!!なんの話ぃぃいいいい!?」
「旦那はドSでさァ。ただアイツがそれを凌駕するアバズレなのかもしれねェだけで。」
「やっぱ経験値半端ねェのかな…。別にいいんだけどね、エロいから。」
「話に混ぜてぇぇええ!!!」
別にアイツの過去がどうだろうと、知ったこっちゃない。別に過去に高杉に惚れてようがマヨラーに惚れてようが知ったこっちゃない。
全然気にしてない。
ただなんとなく、この場の話を持たせるための話題だ。男子会ってこんな感じだろ、話題なんて下ネタしかねェだろ。
飯を食いながら「俺にも教えて」だの「アイツって誰」だのギャーギャー騒ぐジミーの足元をテーブルの下で蹴飛ばしながら、ふと窓の外を眺めると、後ろ姿が絶妙にエロい女がいて目で追った。夕日だった。
だがその隣には見慣れない男がいて、ファミレスの斜め向かいの店へ入ると、すぐに出て来てこちらのファミレスへ入ってきた。
俺が外を目で追ってるのに気付いたのか、沖田くんもアイツの姿を捉えたらしい。
「申し訳ございません、ただ今満席となっておりまして…」
「え、ここも?休憩終わっちゃうしコンビニでなんか買って食べようか。」
「そうですね。」
「おいアバズレ、ここ空いてんぞ。」
俺が声をかける前に、何処か楽しげなドS仲間が俺の隣を指す。
「アレ、珍しいメンバーだね。」
「コイツらも満席のせいで俺のパフェタイムに乱入してきただけだからね。」
「まぁ座りなせェ。」
「我が物顔で言うんじゃねぇ。」
「…山根君、ここでもいい?」
「いいですよ。」
一緒にいた男に、控え目に聞いて許可を得てから、俺の隣に座る夕日。
で、その隣にナチュラルに座る山根君。
6人掛けのテーブルだから、余裕はなく、割と密着してる。俺と夕日が密着してるってことは、夕日と山根君も密着してるってことだ。
「あ、この子、同じ職場の山根君!総悟、総悟より歳上だから失礼なこと言わないでよ。」
「分かりやした。山崎、なんか地味キャラ被ってるからお前どっか行け。」
「それ失礼なことぉぉおおお!!!」
「休憩中なんだろ、早くなんか頼めよ。」
「あ、うん。」
夕日にメニューを渡すと隣の山根君もメニューを除き込む。
近くねェ?顔近くねェ?コイツ地味で根暗そうなくせに人との距離感おかしくねェ?
店員を呼んで注文をすると、山根君が改めてこちらを見渡し、また少し夕日と距離を縮めると遠慮がちに口を開く。
「あの…夕日さん、もしかしてこの中に、前に言ってた夜のお供が
「わぁぁあああああ!!!」
「「「夜のお供…」」」
「そ、その話はいいじゃん!ね、また今度!!」
「あ、すみません…空気も読まず。つい、気になって。」
「俺も気になりまさァ。夜のお供の話。」
「ちょ、アンタら真っ昼間からなんつー話してんですか!!!」
夜のお供…って俺のことだよねたぶん。
"前に言ってた"ってことはコイツとはそういう話をする仲ってことなの?
つーか夜のお供ってなんだ。ご飯のオカズみてェな言い方しやがって。
確かに、具体的に俺達の関係を口にした事なんてないけど?普通に分かんだろ、流れで。
確かに、言葉足らずかもしんねェけど?普通に伝わるだろ、流れで。
いや、俺もコイツのこと…簡単に、"彼女"だなんて紹介できるかっつったら、微妙だけど。
それでも、目の前で知らねェ男と親しげにする夕日に、なんとなく腹が立つ。
「奇遇だな、俺も最近出来たんだよね。夜のお供。」
言いながら、テーブルの下の、誰にも見えない位置でスカートから伸びる脚を人差し指でそっと撫でた。
「っ、!そ、そうなの?奇遇だね。」
「ソイツがとんでもねェスケベな女でさぁ、困ってんだよね。」
「…困る?」
俺の暴露に慌てていた表情から、少し不安そうに眉を下げた表情に、苛立ちを忘れ楽しくなってきて、脚を撫でる指を増やした。
「毎晩、ヤりたくて仕方ねェから、困ってる。」
「………。」
この職場の後輩らしい男になんで夜のお供が誰なのか、隠したかったのか知らねェが、この顔見れば分かんだろ。
この女は、俺んだって。
「お待たせしました、オムライスとハンバーグAセットでございます。」
少し赤い顔のままオムライスを受け取って、然り気無くフォークとナイフを隣の山根君に渡し、懐から出したチーズをぶっかけ始める。
その乱暴な手付きに、若干の苛立ちが見えた。
なんで怒ってんの?
「私の夜のお供はね、ほぼプー太郎でパチンコばっかしてるの。だから時々うちの店にも来るんだけど…顔バレしたら、もう来ないで、欲しいかな。ヒモ男飼ってると思われるし、変な噂になるのも嫌だし、私…店で結構人気キャラらしいし?ね、山根君。」
「えぇ、モテてます普通に。でも夕日さん、それはちょっと…チーズ、かけすぎなんじゃ…」
あー、そっか。俺が夜のお供だってバレたら、俺が店に行く度、なにかしら思われるからってことか。
確かに、パチンコ屋って場所柄、なんか店の情報流してんじゃねェかとか、そんなこと出来ないとしても、思われる可能性はあるしな。
それは分かったけど…モテてんの?コイツが?
こんなチーズまみれのもん食って、酒もアホみてェに飲むし、ギャンブルするし、ダラしねェこの女が?
「そりゃ夕日ちゃんはモテるでしょうね。美人だし、気立てがいいし、仕事はちゃんとやってそうだし。」
「夕日さんは、ベテランで仕事もできるし、皆に信頼されてますよ。それにお客さんからも好かれてて、夕日さんが休みの日はよく"今日はあの美人の子いないの?"って聞かれますよ。」
「え、そうなの?初耳。」
何でもないことのように、オムライスを口に運ぶ夕日。
は?別に?焦ってないけど?
コイツがそのうち誰かに乗り換えるんじゃねえかとか全然思ってねぇけど?
「モテるのに、勿体ないです。夜のお供なんて…夕日さんのこと…大事にしない男の気がしれない。」
アレ…コイツ…、今俺のこと睨んだ?
コイツ、夕日のこと…
「大事に…されてないわけじゃ、ないよ…?たぶん。」
オムライスを見つめたまま夕日が発した優しい声に、全員が釘付けになる。
「なんとなく、思ってることは分かってるし…私が思ってることも、たぶん…バレてる。でも、言葉にしちゃったら…余計に、…」
オムライスから、目線をこっちに寄越した夕日が、イタズラっぽい…だけど、そこはかとなく色っぽい表情で言う。
「我慢できなくなるから…言わない、だけ。」
……その顔、ぜってェ向こうに向けんなよ。
「…ふん、面白ェもん見たんで俺達ァ仕事に戻りまさァ。旦那、アンタちゃんと調教できてるから安心してドS自称してくだせェ。コレ、金。行くぞ地味キャラその1。」
「え!?俺のこと!?てゆうか旦那の相手まだ聞いてないんですけど!!気になるんですけど!!」
え、コイツまだ察してないの?コイツ監察だよね?監察のくせに分かんねェの?どんだけ恋愛に疎いの?
「地味キャラその2、コッチ空いたから移動しろィ。」
「…ぁ、はい。」
「山根君は地味キャラじゃないから!ただちょっと根暗オーラがあるだけで!意外と紳士で積極的な肉食男子だから。…ね?」
あ、コイツ、気付いてんのか。山根君の恋心。
"バレてるよ?"と諭すような表情。
俺と"友達"だった頃は、鈍かったくせに。
「私達も、もう休憩終わるし行くね。はい、お金。会計よろしく。」
「おう。沖田くん達多めに置いてってくれたから、俺もう一個パフェ食ってくわ。」
「お邪魔しました。」
「…まぁ、頑張れよ山根君。」
「はい…。」
「じゃあね。」
「夕日、"また"な。」
「また、"夜"ね。」
…アレ、今日来いってこと?
まぁ、言われなくても、行くけど。
顔に書いてあったから。
"今夜も大事にして下さい"って。