#18 酔ってたからって言い訳は最強で最低
「じゃあ旦那、後はよろしく頼みまさぁ」
「ちょ、ちょっと待てよおまわりさん!こうゆう酔っ払いの相手もおまわりさんの仕事なんじゃねーの!?」
「飲み友達なんですよねィ?友達なら最後まで面倒見てやってくだせぇ。"万事屋の"旦那ァ。」
その言葉に苦笑いするしかない俺。
「あ、一応言っときますけど、旦那もその女に手ェ出さねぇで下さいね。土方の野郎から旦那に乗り換えるなんてことがあっちゃつまらねぇんで。」
「お前さっきのコイツのセリフ聞いてただろ。おたくの副長のことを結婚前提に性的に狙ってんだよこの女は。」
「そうゆう女に燃えるのがドSなんでさァ。旦那なら分かりやすよねィ?」
「分かってたまるか!」
そんな言い合いの後、使えねぇおまわりさんは路上に座り込む酔っ払いを見捨てて去っていった。
しばらく背中をさすっているとやっと落ち着いてきたらしく、ポケットから出したティッシュで盛大に鼻をかみだした。
「鼻にゲロ入ったぁ。」
「きたねぇな!歩けるか?」
「…歩きたくない。抱っこして。」
「ガキかてめぇは!…仕方ねぇな。ホレ!」
そう言って酔っ払いの前にしゃがみこむと、なんの躊躇もなく体を預けてきた。
「頼むからそこでゲロ吐くなよ。」
「うん。もう全部吐いた。…んぁー。いい匂い。」
背中にギュッとしがみついている変態酔っ払い女は、俺の襟足のあたりに顔を埋めて息をスーハーし始める。ゲロ臭くなるからやめてほしい。
距離的に、万事屋の方が全然近かったっつーことで、とりあえず万事屋に連れて帰った。
ソファに座った酔っ払いに水を差し出して、自分はいちご牛乳を飲む。
「銀さん、お風呂貸して。」
「は?そんなフラフラで風呂なんか入れねぇだろ。」
「私帰ったらまずお風呂入りたい人なの。」
「なんだその風呂へのこだわり。そういやこの前も風呂入りたいからって宅飲みになったんだよな…。今日はやめとけ。酔い回るぞ。」
「やだ、お風呂入る。」
「しずかちゃんかてめぇは!どんだけ風呂好きなんだよ!そんな目座った状態で入れんのか!?」
「じゃあ銀さん一緒に入ってよ。」
「お前俺をなんだと思ってんだよ!お前の父ちゃんじゃねーんだぞ!」
「いい歳こいて父ちゃんとは入らないよ。」
「分かったからもう一人で入ってこい。転けんなよまじで。」
「吐いたからもう酔い冷めたもん。」
なんなんだコイツの風呂への執着は。
しかもパジャマ貸してとか言い出すし。適当に休憩して落ち着いたら家に送るつもりだったのにコレ泊まってく流れじゃね?
しばらくして風呂から出た夕日は、風呂で暖まってまた酔いが回ってきたらしくソファで項垂れている。バカだろコイツ。
「ダメだぁぁ、フラフラする。」
「風呂なんか入るからだろ!つーか頭乾かせよ、風邪引くぞ。」
「ちょっと待ってよ父ちゃん…」
「父ちゃんじゃねぇっつってんだろ!」
仕方なく風呂場からドライヤーを持ってきて渡したが、全く動こうとしない。
酔っ払いってめんどくせぇ。つーか俺も酔っ払いなのに。
仕方なく、ソファにうつ伏せで寝転ぶ酔っ払いの頭に熱風を当てる。
適当に手ぐしで髪を解かしながら乾かしていると急に顔を持ち上げた酔っ払いと目が合う。
「ちょっとムラッとしました。」
「うるせぇ!寝ろ!永遠に寝てろ!」
頭を持ち上げたついでに前髪をガシガシ掴んで乾かす。ちくしょうサラサラストレートめ。
しかも、絶対コイツ明日記憶ないんだろうなコレ。
「つーかお前泊まってくの?」
「もう帰るのダルいもん。神楽ちゃんと寝る!どこに寝てるの?」
「押し入れ。」
「ウソでしょ…布団あるよね?」
「一枚だけな。」
「銀さんの?」
「そう、俺の。」
「じゃあそれに寝よう。大丈夫、手ェ出さないから安心して。」
「それ女のセリフじゃねぇから!」
あまりのめんどくささに、とりあえず敷いた布団に酔っ払いを突っ込む。
もう寝てくれ、頼むから寝てくれ。
その無駄に絡んでくる感じめんどくさいし、俺の甚平着てるから首回り…っつーか胸の谷間まで丸出しなせいで、こっちもムラッと来るし、頼むから寝てくれ。
「俺も風呂入ってくるから、お前とりあえずそこで寝ろ。今すぐ寝ろ。」
「えー寂しい。せっかくお泊まり会なのにー。」
「お泊まり会なんか開催した覚えはねぇ。 」
そのあとも何やら騒ぐ酔っ払いを軽く無視して風呂に入る。
ここで一発抜いて賢者モードになっといた方がいいんじゃねぇかとか一瞬血迷ったが、今ここで抜くとしたらオカズになるのはアイツな気がしてやめておいた。
つーか俺何考えてんのまじで。
アイツに期待するのはやめるって決めたはずだ…それに、期待なんぞする以前にアイツが好きなのはあのニコチン野郎で、 俺が手ェ出せるはずもねぇ。
さすがにそこまで男のプライド腐らせちゃいねぇからな。
風呂でそんな余計な欲望を洗い流してから寝室を覗くと、案の定布団の中で寝息を立てている酔っ払いがいた。
そうなると俺の寝床は必然的にソファになるわけだが…この夜の寒さの中、冷たいソファなんかで寝たら確実に風邪引く。下手したら死ぬ。
足音を立てないように、布団の中でぬくぬくと丸まっている酔っ払いの顔を覗くと、口を半開きにして爆睡をかましている。
こんだけ爆睡してりゃ、いけるか。
そっと布団をめくり、静かに滑り込み、体に触れないよう、布団の隅に寝転ぶ。
チラッと横を見ると、酒の匂いと自分と同じシャンプーの匂いを纏った女が目に入る。
よく見ると目の端に落ちきってない化粧が残っている。化粧落としなんか置いてねぇから、石鹸で洗ったんだろうか。
酔っているせいか少し荒い息と、近距離で見ても白くてキメが細かい肌に、思わず触れたくなる。
そういや女ってこんな感じだったか。
風呂で捨ててきたはずの欲望が、また顔を出しそうになり、自分の欲を振り切るよう、呑気に爆睡する女に背中を向けた。
やっぱソファで寝りゃよかった…。
そんな後悔を抱きながらも背中に感じる温もりは、アルコールにまみれた脳ミソを気持ちよく睡魔へと誘い、吸い込まれるように夢の中へと落ちていった。