私が笑ったらしい。と、言葉にするととても変だけれど笑ったらしい。そんなことがあり得るのだろうか?私にそんなことが出来るんだろうか?感情と言うモノは確かにあるかもしれない、でも、それを示す術を私は持ち合わせていない筈。鏡で自分の顔を見れば所謂無表情と言うモノで、知恵として得た様々な表情と言うモノに似せようとしたけれど出来なかった。他の人は偽りの笑顔すら出来ると言うのに、口角を上げたことの無い私には偽りとしてもその行為は出来なかった。


「…つまり、私はあの空間で1つ表情を得たと言うことなのだろうか」


雛森さんの話では以前より少し雰囲気が柔らかくなり、目を細めることもあったらしい。雰囲気が柔らかいというのは理解出来ないけれど、目を細めるという行為は無意識そのもので。やはり私は変わったのだろうか、雛森さんとの接触で。雛森さんを本能的に好きだと、自覚したあの時から…私は変化したのだろうか。


「雛森さんだけじゃなく、阿散井くんも吉良くんも…あの三人が醸し出した世界に惹かれた、ということでしょうか…」


わからない。何も。
ただあの空間での出来事を思い出すと、ふわりと何かが浮かぶ感覚。これが楽しかった、と感じていることなのだろうか。嗚呼、理解不能だ。感情や表情と言うモノは本当に難しい。