「この世界が水に沈んでしまえば良いのにね」

女はふわりと髪を揺らし目を細め窓から月を見ながらこう告げた。いきなり何を言うのかと思ったのが伝わったのか女はクスクスと俺 を見て笑った。口許に当てていた細く白い指 先が俺へと伸び軽く頬に触れた。

「この虚圏みたいに水の無い世界が、ゆっく りゆっくり水に溺れるの。最初は大地が潤ってこの景色もこんなに哀しくなくなるよ。でもね歩くとぐちゃぐちゃで水は増えて増えてあたしやあなたを浸食していくの」

「……逃げればいいだろう、その押し寄せる水から」

「うん、みんな逃げて欲しいな。でもあなたはダメあたしとこの世界に残るの。あたし達二人きっりの世界で水に溺れて死んじゃうの。そしたら肉も髪も骨も心さえも水に溶け込み…そし てあたし達はひとつになるんだよ」

「ひとつに、なりたいのか?俺と…」

「うん、溶け合いたいの。二人で溺死すれば本当にひとつになれるよ、一部が繋がるなんて小さいものじゃなくて…あなたとあたしと言う存在が1と数えられるくらいのひとつ」

切なく微笑む女の言葉は他人からすれば恐怖であろう内容にも関わらず、女と言う存在に既に溺れている俺には愛の言葉にしか聞こえない。酷く愛しく感じて女を抱きしめれば女はそれに答える。心とは厄介だがこの愛の感情は嫌ではない。

「溶け合ったら抱きしめられないぞ」

「ひとつだから、抱きしめてるのと同じだよ」

「口付けもか?」

「…ふふ、それは少し寂しいね」

女に口付ければ唇は繋がり、密着から身体も繋がっている。だが女の欲している繋がりは こんな小さなものではなく最大限の繋がり、存在すら繋がりひとつになりたいという。女の気持ちも解らなくはないのだ、ただ俺は俺と女が別の存在であるからこそ女を愛しく思えて女を感じれる。それでも、死ぬときは女と…織姫と言う愛すべき存在と二人っきりで 溺死したいと頭の片隅で願った。


end――――――――――――――――――――――

ブログから移しました!
多少狂うのは愛故!


20130530(修正済)






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