『ハァ……』 「5回目」 『え??』 「溜め息。何かあった??」 卒業式の日、家に帰ってクロフネでコーヒーをご馳走になっていると、マスターが心配そうに眉を下げてアタシの顔を覗き込んだ。無意識に溜め息ばかりついていた様だ。 『あ……ごめんなさい』 「何も謝る事はないけどね。」 気まずそうにクスクス笑うマスターに、今日の事、不安に思ってる事を聞いてもらおうと口を開いたけど カラーン♪ 「こんにちはー♪あ!名前ちゃん!」 話し始める前にりっちゃんがやって来た 「ねぇねぇ竜兄卒業式どうだった?!泣いてた?!」 『ううん、笑ってたよ』 「なーんだ!絶対泣きそうだと思ったのになぁー。で、竜兄は?来てないの?」 『うん…卒業式の打ち上げだって』 言いながらチクリと胸が痛んだ 「ふーん……だから元気ないんだ名前ちゃん」 『え?!ち、違ッ』 「えー?竜兄がいなくて寂しいんでしょ??」 『違…わないけど、違う…』 「えー?何それー?」 確かに今ココに竜兄がいないのも寂しいけれど、でもそうじゃなくて… 「名前ちゃんもしかして、竜が遠くなっちゃった気がしてる?」 『……』 「え?どーゆう事?」 マスターの言う通り。アタシはこれからの事を考えると堪らなく寂しくて不安なんだ。卒業した竜兄とは生活の時間がズレる様になっちゃう。学年が違っても学校という同じ空間にいる事で安心出来ていた。これからどんどん竜兄はアタシの知らない世界を知っていく。そのズレが、いつかアタシたちの気持ちのズレになるんじゃないかって、アタシは堪らなく不安なんだ。 「そっか…」 「うーん、でも竜兄はダイジョーブな気がするんだけど僕」 『どうして?』 「なんていうか、竜兄だから?」 『……わかんないよ』 「あーでも、りっちゃんの言う事、俺も同感だなぁ。竜は変わらない気がするよ」 それから三人でおしゃべりをして、りっちゃんが帰ってアタシも部屋へ戻った。 『ハァ………』 りっちゃんもマスターも竜兄だからって言ったけど、それでもアタシは不安だよ。 その日はなかなか寝付けなくって、やっとウトウトし始めた頃にはもう明け方だった。その朝店から聞こえる声で目が覚めた。と言ってもクロフネが開いてる時間でもなく、眠い目を擦りながらアタシはやっとマスターと話している声の主を理解して階段を駆け降りた 『竜兄?!』 「!!うぁッ!なななな!名前!お前、なんて格好で///!!」 「あーごめんね名前ちゃん、起こしちゃったかな」 『い、いえ…』 夢中でクロフネに降りたアタシはパジャマ姿のままで、それに竜兄は挙動不審になっていたけれど、そんな事は今はどうでも良かった。 『竜兄……もしかして、今帰ってきたの?』 卒業式は終わったんだ。竜兄が制服を着る事はもうないはずなのに……乱れた制服がそれを物語っていた。 「あ、あぁ。」 胸がチクリと痛んだ。 「頼む!ジョージ!うまいことオヤジに話してくれッ!」 「朝帰りしたヤツがなに言ってんだよ、しっかり怒られてこい!」 「みみみ見損なったぞジョージ!」 竜兄が懇願してジョージさんにすがりついている間も、アタシは竜兄がどこで誰とこんな時間まで一緒にいたのかが気になってしょうがなくて。だけどボーッと二人を眺めていたアタシはある事に気がついた 『竜兄……』 「頼むっ、あ?何だ名前、ちょっと待っててくれ今ジョージに」 『竜兄、あの、ボタン……どーしたの?』 竜兄の言葉を遮ってアタシは言った。竜兄の制服はボタンがなかった。学ランの袖の小さなボタンまでもすべてが。 「あぁこれなぁ!聞いてくれよ!クラスの女子がよ、何だか知らねーけどよってたかって全部むしりとっていきやがった!!何なんだよ、ったく!ワケわかんねーよな!」 憤慨して言う竜兄をアタシとジョージさんはポカンと見つめた。 「竜…お前なぁ…」 呆れた様にジョージさんが溜め息をつく 『竜兄、意味わかってる?』 一応聞いてみたけど…まぁ、多分… 「ん?意味??………何のだ??」 やっぱり…ガックシ 『アタシ、そろそろ支度してきますね』 「あぁ、うん」 「あ?え?何だよお前ら??意味って何だよ教えろよ!」 キョロキョロとアタシとジョージさんの顔を交互に見ながら焦る竜兄に何も声を掛けず、アタシは自室に戻った。 (まぁ、竜兄だしなぁ…) 第2ボタンの事なんて、ホントはアタシも忘れてた。だけど欲しいか欲しくないかと言われれば欲しい。言葉とか感情に比べると物理的な思い出なんてって思うけど、やっぱり形の残る思い出だって欲しいよ。それをアタシ以外の誰かが持ってるなら尚更だ。 憧れの第2ボタンの行方 「第2ボタンとか古くせぇ…つかバカみてぇ」 「こら一護!ハァ……全く竜兄も仕方ないなぁ」 「しゃーねーだろ、竜兄だぞ」 でも、欲しかったの |