1メートル先の貴方が滲んだ




サヨナラじゃない


       でも


          サヨナラ
























「ウッ、ひっく、…」


隣のクラスメートが泣いている
あと3人で、彼が壇上に上がるんだって泣いている。厳かな雰囲気の中、泣いているのは彼女一人だけじゃない。あちらこちらから、噛み殺すようなすすり泣きが聞こえる。隣のクラスメートの肩を抱くと、その隣の隣から一護くんがチラリとこちらを伺っているのがわかった。でも、アタシは泣いていない。我慢なんかしてないよ。だってサヨナラじゃないもん。明日も明後日も、この子とこの子の彼とは違って、竜兄はアタシの側にいる。


「八田 竜蔵!」
「おぉう!」


担任の声に竜兄がいつもと変わらぬ笑顔で壇上へと向う。威勢のいい返事に体育館が沸き立った。竜兄の名を呼ぶ卒業生。先輩と叫ぶ在校生。嗚咽混じりに聞こえたおじさんの声


「お世話になりました!!」


卒業証書を貰った竜兄は、ビシッと校長先生に頭を下げた。あぁ、アタシがこの吉祥寺に戻ってきて、もう1年が経ったんだね。何だか凄く怖い人になっちゃったんだと思っていた竜兄は、やっぱり昔のままの優しくて面倒見のいい竜兄で。10年経ってちょっぴり大人になったアタシは、そんな竜兄に惹かれて恋をした。なかなか女として見てもらえない事に傷ついて、でも竜兄もアタシを想ってくれてたって知った時、凄く凄く嬉しかったよ。


「卒業生、退場!」


うん、そう。ほらその笑顔。やんちゃなその笑顔が大好きなの。その大きな手も、大きな背中も、もう昔とは全然違うけれど、本当に大好きで大好きで……あぁ、そうか………。


「うぅ、名前〜…ひっく」


もう二度と、今日の竜兄には会えないね。明日も明後日も、貴方はアタシの側にいるけれど、毎日毎日変わって行くんだから…。今日の竜兄とはサヨナラなんだ。もう最後だね。


「………ッ」


卒業生が拍手と歓声の中、続々と目の前を通り過ぎ体育館を後にする。アタシの丁度目の前を今この瞬間にしか会えない貴方が眩しい笑顔で通り過ぎた。大好きな大好きな笑顔。










「あ!名前!」
『ふぇ?へ?え?!』
「口にチョコついてんぞ!全く名前は食いしん坊だなぁ〜」
『ちょ!!……最ッ低!!』



場内爆笑



2010.11.17
title:閃光様


←back