背伸び




ホントはね、パステルカラーが好きだったり、やっぱりフリルに目が行くし、やっぱ冬だしファーのシュシュだってすっごくすっごく欲しいけど。


『…うーん……子供っぽいよね…』


小さくため息をついてフワフワの手触りの良いソレを置く。アタシが子供なんてわかってる。彼から見ればどんなに背伸びしたってきっとそうだ。だけどやっぱりね、ちょっと位、たまにはドキッとさせてみたい。


『って、いつもと同じ店で探してもしょうがないのかな……』


でも、大人の女の人が行きそうなお店に行くなんて勇気がいる。場違いだし、入ったところで似合うものなんてないし、だいたいそんなにお金持ってないしなぁ………


『いや、負けちゃダメ!行くだけ行ってみよう!』


ダメだったら二度と行かなければいいし!そうすれば恥ずかしくないし!(いや、ちょっと恥ずかしいけど!)とにかく!当たって砕けろだ!




















『はぁぁ………』


息巻いて来てみたものの、背伸びし過ぎにも程があったらしい。いつもとは違う大人のお店と思って、入った事もなかった百貨店に入ってみたらとりあえず一階でやられた。めちゃくちゃ高そうな化粧品を眺める、めちゃくちゃ綺麗な女の人達が、めちゃくちゃいい匂いのしそうなTHE大人の女!って感じの女の人とあれやこれや話をしている姿がそこらじゅうで見られた。もう、場違いどころじゃない!


『…………』


それでも意を決してヤングミセス売り場だとか書いてある階に辿り着いたものの、やっぱり敷居が高すぎる様に思えて入れず、ウロウロウロウロした挙句、あぁこれで何度目か、パウダールーム。


『……帰ろっかな…』


土俵際での不戦勝。正にそれ。最早何度もうろちょろした通路を通る気にもなれず、パウダールームのすぐとなりの階段室に入ろうとした時


「名前?」
『え?、ぇえ?!大我さん?!』


声を掛けられ振り向くと、アタシと同じ位場違いな彼がいた。


「お前何してんだこんなとこで」
『た、大我さんこそ!』
「いや、俺はちょっと、用があって…」
『……なんの?』
「だ、だから!ちょっと、だよ!」
『………(怪しい)』
「な、何だよ!お前こそッ!小便漏らしそうになって駆け込んだとかか?!」


さ、最低〜……。
そりゃ確かにアタシがいるのはおかしい位大人な場所って感じだけど、でも最低。ホント、最低。


『別にいいでしょ!ア、アタシはただ、ちょっと服を見に来たっていうか……』


口ごもりながら俯くが声が返ってこない。不思議に思い顔を上げるとそこにはポカンと明らかに予想外と言いたげな顔をした大我さんが宙を見ていた。


『な、何よ!わかってるよ!どうせアタシには似合わないって言いたいんでしょ!』


居たたまれなくなって背を向けて歩き出すといきなり手首を捕まれた


「何も言ってねーだろ」
『……』
「…や、まぁ正直、こんなとこで買い物トカ、イメージじゃねーけど」
『やっぱりバカにしてる…』
「してねーよ!イメージじゃねーだけで、似合わねーとは、言ってねー……」


アタシはただ込み上げる恥ずかしさから涙が出そうになって俯いた。大我さんはそんなアタシに小さく舌打ちをした後、腕を引っ張ってある店に連れてきてくれた。


「ほら、ここなら他よりも若めで選びやすいだろ…」
『………』


デザインが少し大人だけれど、大好きなパステルカラーにフリル。さっきのよりか遥かに上等だけどファーのシュシュだってある。


「おら、ボーッとしてねーで見てみろよ」
『…あ…うん』


触るのだってちょっと緊張する位の素敵な洋服達。一歩下がって見守る様についていてくれる大我さんがすごく頼もしかった


「ん?それ、気に入ったのか?」
『うん……でも、似合うかな…』


手に取ったワンピース。いつもより上品な花柄に大人びたライン。可愛いけど、素敵だけど、似合わないよねきっと……。と、ため息をつく間もなく、大我さんが店員さんを連れて現れた。


「そちらご試着ですね」
『え?!あ、えと…』
「いいから着てみろよ、気に入ったんだろ?」


柔らかく笑う彼に涙が出そうになった。なんでこんなに涙腺緩いのかなぁアタシ。















「名前?どうだ?」
『…………』


意外だった……。思ってたよりも似合ってる、気がする…。ちょっと胸元が深く開きすぎな気もするけど、あと少しお化粧して髮もアップにしたら、もしかして結構似合うかも?


(買っちゃおっかなー………!!)


「名前?」


シャッ!!


「うおッ!おまッ!いきなりあけんなよ!ビビるだろ……って、なんで元の服なんだよ?」
『…やっぱいい…似合わない』
「は?」


キョトンとする大我さんと目も合わせず、アタシは店員さんに脱いだ服を渡した。


(高ッ!!お小遣いじゃ買えないよ!!)


「おい、名前?」
『帰ろ…大我さん』


虚しい。超虚しい。結局アタシには背伸びだったってワケで。極力明るく振る舞いながら、大我さんのスーツの袖を引っ張った。


が、


「さっきの、貰ってくわ」


え………―――


袖を掴んだ手をはらわれて、振り返った時には彼はレジに向かっていた。





















『あの…ありがとう。高かったのに…』
「んだよ、気にすんな!確かにお前にはちょっと高くて買えねーよな!」
『うん』
「ま、でも似合ってたんだろ?ホントは」
『…多分』
「じゃ、帰ったら着てみせろよ」
『はい…』






コンコン……カチャ


『大我さん、あの……』
「おう!着たか!」
『はい、えと、どうでしょうか?』
「!!!!!!!!!!!!」
『た、大我さん……??』
「いいいいいいいいいいんじゃねーか?!?!?!」




予想外なセクシー



2010.11.17




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