HAPPYBIRTHDAY



10月30日。今日は私にとって、とてもとても、大切な日。


『太一さん!太一さん!』
「ん……ぅん…?名前ちゃ」


ガバッ!


「え?!俺もしかして寝坊?!って、…名前ちゃん?えっと、どーしたの?」


目が覚めたのか慌てて起き上がった太一さんは私のめかし込んだ格好を見てキョトンとした顔をした


『太一さん、デートしましょ♪』


その表情に満足してニッコリ微笑み言うと、太一さんは今度は予想外に慌て出し、でも店が!役目が!と忙しなくキョロキョロし始めた。


『今日はお店もお役目も無しですよ!』
「へ?えと…何で……かな?」


えー!!なんでって……。まさか忘れてる??そんなのありえるの?


『太一さん……今日何の日か覚えてないんですか……?』
「え?え?ご、ごめん!俺、約束忘れてたんだね……だけどごめん、正直思い出せなくて……本当にごめん!」


太一さんはこれでもか!という位に申し訳なさそうな顔で頭を思いっきり下げたけど……


『もう!本当に覚えてないんですか?!』
「うん……ごめん。名前ちゃんとの約束忘れるなんて最低だね俺……」
『違いますよ!』
「え?」
『誕生日!今日は太一さんの誕生日じゃないですか!』
「え……あ、ああそういえば!」


そう、今日はアタシの大切な人、太一さんのお誕生日。

そういえばなんて、ある意味太一さんらしい。お店や組の事やアタシの事が先に出てくるなんて、ホントに周りを思いやる人なんだなぁ。

















「名前ちゃんお待たせ!」
『ふふ、全然待ってないですよ』
「ありがとう。それで、どこに行こうか?」
『太一さんの行きたい所に行きましょう!今日は太一さんの日だもん』
「うーん……行きたい所かぁ…」


一瞬考えた後、あっ!と思いついた様に太一さんが提案した場所へと私達は向かった














「着いたね」
『あの…太一さん?』
「うん?」
『今気付いたんですけど、ここって、いつか私が来たいって話した遊園地じゃないですか?』
「あはは、バレちゃった?」


なんて、面白そうに笑ってるけれど、太一さんの行きたい所って言ったのに…


「ごめんね?でも俺も来たかったんだよ?」
『嘘だ…』
「本当だよ!だって俺、名前ちゃんの喜ぶ顔を見るのが一番幸せだから…」
『太一さん……』


嬉しいけれど、ホントに良かったのかと俯くアタシの視界に大きな手が現れて、顔を上げると優しい笑顔の太一さんがいた。その大きな手をとって、私達は手を繋いで遊園地の入り口を抜けた

















『太一さん!あれ!あれ乗りましょうよ!』
「あ、名前ちゃん!あんまり走ると危ないよ!」


最初の小さな罪悪感は何処へやら、自分でも呆れてしまう程にアタシは興奮していて…


『あー!楽しかった!太一さん次、どれ行きます?』
「……?」
『あ……れ?』


いつの間にか見知らぬ人に話しかけていた。ごめんなさい!と謝ると、どうやらその男性も彼女とはぐれてしまっていた様で、


「電波が上手く入らなくて、なかなか携帯も繋がらないんだ……」
『ぇえ?!あ……ホントだ…』


これって………迷子?!?!


どうしようと頭が真っ白になった時


ピンポンパンポーン♪

迷子のお知らせを致します
○○からお越しの名字名前ちゃん、名字名前ちゃん、お父様がお待ちです。迷子センターまでお越しください。


ピンポンパンポーン♪


『…………』
「はぁ……僕たちも子供みたいに呼び出せればいいですよね……」
『……です…』
「え?」
『私、です。今の……』


あまりの恥ずかさに真っ赤になりながら迷子仲間のその男性に別れを告げて迷子センターへと急ぐ。てゆーか、いくらなんでもお父様はないでしょ?!お父様は!


『太一さん!』
「あ、名前ちゃん!」


迷子センターに着くと、何故か太一さんは若い係員の女性数人に囲まれてお茶やらお菓子やらをすすめられていて、正直文句を言いたかったけど、言いたい事がありすぎて、グッと喉をつかえてしまった


「ごめんね名前ちゃん、アナウンスなんて入れて…。探したけど見つけられなくて焦っちゃって。そもそも俺がしっかり手を握ってればはぐれなくてすんだのに……。しかもお父様だなんて、彼女だって説明したんだけど。」
『もう、いいです』


はぐれたのはアタシがチョロチョロしてたのが悪いし、アナウンスだってさっきのお姉さん方を見れば納得で。でも面白くなくて笑顔になれない。せっかくの太一さんの誕生日なのに!


「名前ちゃん、これ」
『え…あ、イチゴミルクだ!』
「うんさっきね、迷子センターで色々すすめられたんだけど、これだけ彼女が好きだからって貰ったんだ」
『……これだけ?』
「うん」
『太一さん……ありがとう……あとごめんなさい』


何で謝るの?ってまた大きな手を差し出してくれた太一さんに、アタシはちゃんとした笑顔を見せる事が出来た。


『あ、そういえばさっき、アタシと同じで彼女を探してるって人がいたんだけど…』
「え?そうなの?見つかったのかなぁ」


アタシたちは気になってさっき別れた場所へ行くと、そこにはまだ1人でキョロキョロしているあの男性がいた。話を聞くとこの辺りまで一緒だったから戻ってくる気がして離れられないそうで…


「アナウンスを入れてもらっては?」
「あ、いや……お恥ずかしいんですが、うちの彼女はそちらの彼女さんの様に優しくはないので……多分怒っちゃうと思うんですよね…」


『へ?!』


いや、実際ちょっぴり怒ってましたけど……正直超恥ずかしかったもん。


『太一さん、アタシたちで探しましょうよ』
「うん、そうだね。彼にはここにいてもらって」
「え?!いいですよそんな!せっかくのデートなのに!」
『それはお互い様ですよ』
「そうゆう事です」


困ってる人を放っておくなんて、名字組には出来ません!とまでは言えないけれど、とにかくアタシたちは迷子の彼女さん探しの為に特徴を聞いて遊園地中を探し回った。


「すみません、人違いでした」
『ごめんなさい』
「なかなか見つからないね」
『同じ特徴で1人でいる人なんて遊園地じゃあんまりいないと思ったんですけどね…』
「でも諦めちゃダメだよね!」
『そうです!名字組は諦めちゃダメです!』


それからも人違いが続きながらも彼女を探していると、館内アナウンスが流れた




ピンポンパンポーン♪

迷子のお知らせを致します

○○からお越しの名字太一さん、名前さん。○○からお越しの名字太一さん、名前さん。大我君がお待ちです。迷子センターまでお越しください




ピンポンパンポーン♪




『「………プッ!!!」』


『あははは!!見つかったみたいですね!』
「うん!良かったね!それにしても、面白い合図だったね!あはは!」


実はコレ、彼女さんが彼氏さんの所へ戻って来た時にわかるように、とお願いしておいた合図なんです!!


「いや〜、でも大我さんが知ったら怒るよね??」
『絶対怒りそう!でも笑っちゃいそう!』
「ハハ!あ、もうこんな時間かぁ、最後にあれ乗ろうか」
『あ、はい』


迷子探しをしているうちに随分と時間が経ってしまったみたい。アタシたちは最後に観覧車に乗って遊園地を後にする事にした。


「景色が綺麗だね」
『ホントだぁ……あ、太一さん、これ、アタシからのプレゼントです』
「え!名前ちゃんから?!」
『はい…アタシどんなものがいいかわからなくて、お京さんにも選ぶの手伝ってもらったんですけど……』
「あけていい?」
『はい』
「うわぁ、エプロン!こんなに?!」
『何だか結局選び切れなくて!おうちでもお店でも使うからいいかなって』
「うん!ありがとう!とっても嬉しいよ!大事に使うね!」
『何だか……迷子探しで一日終わっちゃいましたね、誕生日なのに』
「そうだね。でも、俺は名前ちゃんと二人なら、何をしてても幸せだよ」
『太一さん……』


夕日に照らされた太一さんがとても綺麗だった。そっとアタシの隣に移ってきて、アタシも夕日に照らされて少しは綺麗に見えるといいな、トカ、赤くなった顔がわからなければいいな、トカ思ったけれど、狭い観覧車の中では近くって、きっとバレバレだって、目を閉じた





HAPPYBIRTHDAY!!!






『ただいま〜』
「ただいま帰りました」


「おう!おせぇぞお前ら!待ちくたびれたぜ!」


『「プッ!!」』


「な、何笑ってやがるテメェら!!!!!!!!!!」


2010.10.30


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