selfish!



「名前!帰るぞ!」
「名前ちゃん帰ろ〜」
『うん!』


今日は翼くんが先生に居残りさせられる事もなく陽向くんと三人で、帰りは太一さんのたこ焼き食べて帰ろうか?!なんてはしゃぎながら校門を出る。と、そこには見慣れた車が一台。


「ん?!あの車って」
「うちの…?」
『あ!』


ガチャっとドアが開く。車の中から出てきたのは誓さんで。約束してたなら言えよ、と、ブツブツ文句を言う翼くんを陽向くんが引っ張って手を振って行ってしまったけれど……


(約束なんて、してたかな?)


「…名前、乗れ」
『あ、はい…』


アタシの返事を聞く間もなく車に乗ってしまった誓さんは、元々無表情ではあるけれど、やっぱり何か、怒ってるみたいで。


『あの、誓さん』
「何だ」
『ごめんなさい、アタシ約束、全然覚えてなくて……』


とりあえず、謝ってみたのだが


「約束などしてないが?」
『えッ??』


(約束……してない???)


じゃあ何で怒ってるの?何で学校まで来たの?てゆーか今何処に向かってるの??


ちんぷんかんぷんになりながら、誓さんの顔をチラリと見たけれど、やっぱり何故だか怒っている様で話しかけられない。そのまま沈黙の中、車は何処かへ向かって走り続けた。





















「……名前、名前」
『ん……ぁれ?誓さ……あ…』


目を開けると真っ暗の中で誓さんの顔がぼんやりとみえた。アタシは寝てしまっていた様だ。


『ご、ごめんなさいアタシ、』
「気にするな。それより降りよう」


慌てて降りようとした時車の時計がチラリと見えた。


(20時?!そんなに経ったの?!)


随分寝てしまった事に罪悪感を感じながら誓さんの背中を追いかけると、突然ドォンと大きな音がした


『キャッ!』


びっくりして思わず誓さんの腕にしがみつく。固く目を瞑るアタシにクスクスと誓さんの笑い声が降り注いで目を開けると


『う、わぁぁ……!』
「間に合ったな…」


夜空に色とりどりの大輪の花が咲いていた。

『花火だあ!』
「ほう、なかなかのものだな」


よく見てみるとそこは湖で、湖上にはボートが走っている。花火はそこから打ち上げられているそうだ。


『すっごい!凄い綺麗!』


興奮して誓さんを見ると、何故か彼の目には花火ではなくアタシがうつっていてドキリとする。暗闇の中、色とりどりの花火が照らすその顔が、さっきまでの不機嫌顔が消えてとても優しく微笑んでいたから、つい嬉しくて、肩に手をかけアタシからキスをした。


「ん………、珍しいな、名前からキスをしてくるなんて」
『……あ、な、何か、したくなっちゃって……』


急に恥ずかさに襲われて離れようとしたら今度は腰を抱き寄せられて誓さんからのキス。甘くて蕩けそうな感覚に酔いしれていると、今日一番の大きな音が響き渡った。


『………凄い…』
「……あぁ……」


空をを見ると、垂れ柳の様な大きな大きな花火が、金色にキラキラと光りながら湖へと消えて行った。そのあまりの美しさにアタシたち二人は暫く呆然とした。


『ホント凄かったね〜』
「フン、あのバカもたまには役に立つもんだな」
『大我さん…?』
「あぁ、明日皆で行くぞと今朝騒いでいてな」
『明日?!明日もくるの?!』
「多分な…」
『じゃあ何で今日わざわざ…』
「アイツらが居たんじゃ騒がしくてゆっくり見れないだろう?」
『ワイワイ見るのも楽しいよ?』
「花火じゃない」
『?』


「名前の、喜ぶ顔」


『せ…んッ!』


花火を締めくくるスターマインが輝く夜空のその下で、そんな自己中心的な彼は、本日何度目かになる、甘く深いキスを沢山くれた。



selfish



『あれ?てゆーか、じゃあ何で怒ってたの?』
「……怒ってなどいない」
『嘘!絶対怒ってたよ!』
「…チッ、…あまりにも、楽しそうに見えたんでな……」
『え?』
「翼と陽向と……」
『!!』


2010.10.26


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